2017年5月22日月曜日

官僚は何をしなければいけないか

不安な個人、立ちすくむ国家 より
 経済産業省の次官・若手プロジェクトなる勉強会が先日公表した「不安な個人、立ちす くむ国家 ~モデル無き時代をどう前向きに生き抜くか~」という資料がネット上で話題を集めているそうです。
 わしの知り合いの何人かもSNSで取り上げていたのでこのサマリーを読んでみたのですが、正直なところ、普通の行政機関なら、あるいは一定規模の企業とかNPOなら、すでに数年前から議論の段階はとうに済んでいる論点であり、わしにとってあまり目新しい気付きはありませんでした。
 これはかなりの人がそう感じたらしく、ライブドアニュースの記事でも、この資料に対しては賛否両論があるみたいなまとめがされています。
 要はこれからの日本では少子高齢化が進み、国の財政支出は年金や医療費などの社会保障費が多くを占め、ますます硬直化する。なので発想を逆転し、老人福祉は削減して若年者向けに教育費の支援などに政策を移行して、意欲と能力のある個人(若者)が能力を存分に発揮できるような社会のあり方にしなくてはいけない、というものです。

 では、そのためにどうしたらいいのかという具体策が不十分なのは、このプロジェクトの目的が省内のブレーンストーミングであることを考えれば当然と思われます。
 一方で、資料の最後にある
 今回、高齢者が社会を支える側に回れるかは、日本が少子高齢化を克服できるかの最後のチャンス。
 2度目の見逃し三振はもう許されない。
 という部分が、非常に強い危機感の表れであって、若手エリートが世に警鐘を鳴らすものだという受け止めが世間一般では多いようです。
 しかしこれは役人による典型的な「煽り文法」で、政府の報告書や審議会の答申などにはちょくちょく出てくる書きぶりではあります。地方自治体や企業にとっては、こうした煽りをあえて含ませている若手官僚の勉強発表会の内容が、経済産業省の政策に今後 ~具体的には平成30年度の当初予算編成に~ どう反映されるのか、そもそも反映されるのかされないのか、に関心は移っていることでしょう。

 この資料を読んでわしも感じたことがいくつかあるのでメモしておきます。

1)官僚の世代交代感
 このプロジェクトチームの主役である若手(20代、30代)の官僚は、当然、バブル経済のあの景気を知りません。人生の軌跡が「失われた20年」と重なる、身の丈世代、小欲世代の人々です。
 彼らは良くも悪くも成功体験がなく、したがって、政治家やマスコミが、つまり一般の国民の多くが何となくそう信じている
「今は景気が悪いタイミングなので、政府が財政政策や金融政策で景気を刺激すれば、やがては成長に戻るはずだ」とか、
「給付金や買い物クーポンのような国民に対する直接の消費刺激策を行えば、それが起爆剤になって消費意欲は回復するはずだ」とか、
「日本のテクノロジーは優れているので、企業のマインドが回復すれば技術革新によって次々と卓越した工業製品が生み出せるはずだ」とかいった、オカバな思い込みはあまり感じられません。
 こうした、まさにバブル期の尾骶骨を残したような、従来の景気対策を次々手を変え品を変え「上書き」するだけの政策からは脱皮することが期待できるのかもしれません。

2)経済産業省はいらない?
 この報告の結論(提言)の一つが 「公」の課題を全て官が担うのではなく、意欲と能力ある個人が担い手に というものです。
 これもまったくその通りです。(なので、わしなどから見ると「何を今さら」感があるのです)
 個人や企業やNPOが、つまり「民」が社会をリードしていかないと今の閉塞感は打ち破れません。官は公平に競争できる仕組みを作り、アンパイヤーに徹する必要があるのです。これにはほとんど異論はないと思います。
 だとすると、皮肉な話ですが、経済産業省は要らなくなるのではないでしょうか。いや、要らなくなるは言い過ぎで、外国との貿易のルール作りや、製品・サービスの規格認証などは必要です。むしろ今後ますます重要性を増します。
 その一方で、中小企業向けに少額の補助金をばら撒くとか、なんとか相談拠点のような支援機関を全国一律しかも重層的に設置する、などといった今の中小企業対策とか、国が認定した計画には財政措置などを行い、地方に特定の業種の産業を誘致する、といった今の地方経済対策とかは、もはや時代にあっていません。
 こうしたものは国が行う必要などなく、地方自治体が自らの責任で行えばいいのです。そのために必要な財源も、補助金や交付金のように国の恣意が入るひもつき財源でなく、一般財源化するべきでしょう。
 そもそも、経済産業省の原型は、革新官僚といわれた岸信介(安倍総理の祖父)が第二次世界大戦遂行のために旧ナチスドイツや旧ソ連の国家社会主義経済を参考に制度設計した商工省(軍需省)です。戦後の高度経済成長が終わり、垂直統合型の重化学工業の時代がピークを過ぎたことで、政府(官)が一国の経済や産業をリードできる時代は終わりました。それなのに、国主導の「産業政策」という幻想にしがみついた果てが今のこの日本経済の現状です。
 この報告の「モデルなき時代への生き残り」のためには、複雑に絡み合った制度をいったんシンプルに再構築することが必須の前提条件です。そのための行政改革 ~省庁の解体統合、地方自治体への事務移管など~ も避けられないのです。

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