2017年5月3日水曜日

「伊勢エビ < アオサ」の怪

 伊勢志摩経済新聞に、今年2月、松阪市の「のり流通センター」で行われた三重県産アオサノリの入札会に関するニュースが載っていました。
 アオサ(アオサノリ)は、今まで生産量の8割が「青のり」や「つくだ煮」の原料として使われてきました。しかし近年は、加工用でなくそのままサラダやみそ汁、天ぷらなどの食材に使う需要が全体の4割にまで急拡大しています。ビタミンAが多く含まれているなど栄養面が注目され、健康ブームを背景にした需要増加の要因もあるようです。
 この日の入札会では紀北町など県産のアオサ(一部は県外産もあり)445kgが出品され、総額で約7億700万円、1kgあたりでは過去最高額となる平均1万2308円の商いとなりました。
 生産シーズン後半のこの時期としては異例な高値で、インターネットで小売りされる伊勢エビが1kgあたり1万円~1万5千円程度なので、アオサの小売価格がそれを超えると見込まれるとのことです。(伊勢志摩経済新聞 三重県産「アオサ」の価格が「伊勢エビ」超える(2017年02月16日)

 三重県は伊勢志摩地域や東紀州地域(三重県南部の、尾鷲市、熊野市、紀北町、御浜町、紀宝町の2市3町からなる地域)を中心にアオサ養殖が盛んで年間約400t近くを生産しています。これは全国の約半数を占めており、ぶっちぎりの生産量第一位です。このため従来から地域の食材として親しまれてきましたし、最近は地域の特産品としてアオサを使ったお菓子やパン、お酒などの開発や、全国に向けたアオサメニューのPRも盛んに行われています。言うなれば、そうした地場産業活性化のためのプロモーションが功を奏し、需要拡大の動きが確かになってきた矢先のこの高値なので、生産者が儲かることはもちろん喜ばしいことなのですが、あまりの高値のためコスト競争が厳しい食品メーカーでは三重県産のアオサをやめ、他県産や外国産に切り替える必要に迫られることも出てくるでしょう。その結果、三重県産のシェアが低下し、価格も反落して、生産者に厳しい結果が跳ね返ってくることも心配されます。

 この一件は、地域産品の中でも水産物を使った商品開発にまつわる特有の難しさを表しています。水産県である三重県でも漁業は衰退モードが顕著で、水揚げ高、従事者数とも減少傾向が止まりません。漁業者は高齢化しており、後継者の確保が深刻な問題です。
 このため、アオサのように需要が急に増加しても増産に対応できません。ノリ粗朶や網、種などの資材も短期的な急増に対応できませんし、ノリ養殖の漁家もすぐには増やせないからです。またそもそも、今回の需要急増も、過去に似たような例が数え切れないほどあったように、マスコミや行政が作った「ブーム」に過ぎないのかもしれず、関係者としては、一過性でなく本当に設備投資や増員に値する事象なのかどうかを見極めたいとも考えるでしょう。

 さらに難しいのは、人知を超えた自然を相手にしている産業ですから、成果が天候に左右され、確実な見通しが立ちにくいことがあります。ある水産物が食材としてポピュラーとなり、多種多様な分野で大量に使われるようになると、不漁だったときのダメージは甚大です。
 食品製造業者や卸売業者にとって、このような危機に備えて仕入れ地を複数に分散させておくのはビジネスの常識で、生産量日本一の圧倒的シェアを持つがゆえの三重県の弱点はここにあります。事業戦略のまさに分岐点であって、三重というブランドを優先し、供給不足もやむなし(その場合、これをチャンスとして他産地がシェアに食い込もうとするでしょう)とするか、三重県の養殖技術を他産地に展開して同じレベルの高品質なアオサを三重県外でも供給できる(その場合、地域ブラントの価値は低下します)ようにするか。
 漁業全体の先行きが見通せない中、関係者は難しい判断を迫られることになるでしょう。

 ここ何年か、三重県内、あるいは周辺での魚介類の不漁が立て続けに大きなニュースになっています。
 今年1月ごろには、この時期、東北・三陸沖から熊野灘にやって来る、脂が適度に抜けた特産のサンマが極端な不漁でした。海水温が高かったことや外国の漁船が乱獲したことなどが原因とされましたが、三重県熊野市では恒例の「さんま祭り」で他県産のサンマを使用して賛否の声が上がりました。
 3月には三重県北中部の伊勢湾沿岸の特産であるコウナゴ(イカナゴ)が、三河湾ともども不漁で、昨シーズンに続いて禁漁となりました。
 4月には、カツオの全国的な不漁が、また、三河湾のアサリの激減が大きなニュースになっています。

 漁業を中心にした水産業の厳しさ、難しさが再認識される事態です。リスクをできる限りゼロにし、デコボコはできる限り平準化しようという圧力が強い現代日本の風潮もその一因かもしれません。
 

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

そんなことよりアオサ漁師が脱税しないか当局はしっかり調べないとね!随分羽振りがいいみたいですから。

半鷲(はんわし) さんのコメント...

 わしは漁師の脱税などないと信じていますが、適正な税務処理に努めていただきたいのは同感です。政府や自治体はさまざまな地域活性化策を講じ、農林水産業へも支援を行いますが、こうした行政政策の評価は税収がどれだけ増えたかが究極の判断基準のはずです。残念ながらほとんどの政策評価は肝心なこの最後の部分が抜けているので、こういったある種の不信を免れないのだと思います。