2017年5月7日日曜日

仏都・伊勢を往く(神宮寺編)上

 神都といわれる伊勢(宇治・山田)ですが、平安時代から江戸時代にかけては時期によって程度の差はあれ神仏習合が進んでおり、多くの寺院が建ち並んでいました。これが明治政府による廃仏毀釈政策によって一挙に姿を消し、一部は後になって再興したものの、大寺であっても完全に破壊されてしまい、二度と復興を果たせなかったものもあります。
 今回取り上げる菩提山神宮寺もその一つで、江戸中期の伊勢参宮ガイドブックである「伊勢参宮名所図会」にも大きく載る名刹でありながら、今は跡地は完全に雑木林に変わり果てており、わずかに石碑が建っているにすぎません。真に世の無常を感じます。
 しかし、この神宮寺については興味深い後日談があります。廃仏毀釈で廃棄される寸前であったご本尊などたくさんの仏像や仏具が、伊勢と海を挟んだ対岸にある三河国(愛知県)の敬虔な仏教徒によって引き取られ、今でもなお大切にお守りされているというのです。

 伊勢神宮・内宮に近接して仏教寺院が建てられたのがいつだったのかははっきりとしません。
 「続日本紀」には「文武天皇2年(698)の12月に多気大神宮を度会郡に遷す」という記事があり、これは大神宮でなく大神宮「寺」を移したものと解釈すべきとする向きもあるようですが、確実なのは天平神護2年(766)7月の記事に「朝廷が使を派遣し、伊勢大神宮寺のために丈六仏像を造立せしめた」とあるので、8世紀の奈良時代には大神宮寺というお寺はあったようです。
 その後、称徳天皇と道鏡による政治スキャンダルなどが発端となり、宮廷での神事や伊勢神宮から仏教や僧は隔離されることとなり、伊勢大神宮寺も神の祟りを理由に遠隔地に強制移転されました。その大神宮寺とこの神宮寺が同一のものかは不明ですが、神宮寺に関しては平安末期の1185年(文治元年)に良仁なる上人が再興したと伝えられるとのことです。
 
 江戸時代には寺勢の最盛期は過ぎており、金堂や多宝塔など多くの伽藍は焼失していましたが、本尊の丈六阿弥陀仏をはじめ、両脇立の不動毘沙門、仁王などの多くの仏像、神像や曼荼羅石などがあったようです。

国立国会図書館デジタルコレクションより

 しかし、上述のように廃仏毀釈ですべての建物が破却されました。石碑が残る跡地はこんな感じ。


 手前に橋が架かっているのでかろうじてこの付近だとは想像できますが、あまりにも変貌しています。橋の奥は私有地のため立ち入ることが認められていません。

 明治2年、政府の度会府は神領内、つまり宇治山田地区の寺院に廃寺を命じました。僧尼は還俗を、仏像仏具は破却を求められ、神宮寺の本尊であった丈六仏(阿弥陀如来坐像)をはじめ多くの仏像群も廃棄が迫られましたが、ここに現れたのが三河国碧海郡大浜(現愛知県碧南市)に住んでいた角谷大十なる人物です。
 漬物で財を成していた大十は商用で松坂を訪れたとき、「神域で仏を祭るのはいかない」と宇治、山田が騒ぎになっていることを知りました。そこで200両を投じて本尊を含む60以上にものぼる仏像と仏具を購入して、舟で大浜に運んだのでした。(碧南市史)
 これらの仏像は碧南市の海徳寺に移され、丈六阿弥陀仏はそこの本尊になっているとのこと。わしはそのことを知って興味が抑えられなくなり、早速、海徳寺に行ってみました。

つづく

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

いつも大変興味深く拝読しています。
神宮と仏教の結びつきは、歴史的にも古く、民衆とともに深まったと思われます。それが、明治以降国家政策により、大きく変えれれたことを改めて認識しました。
最近出版された「変容する聖地 伊勢」ジョン ブリー 氏 編 を見ましたが、そこでも詳しく述べられており、学問的にも興味を持たれている対象になっているのではないでしょうか。
政教分離とはいいながら、昨今の状況は改憲の動きもあって、政治と神宮との関係も変化しつつあるように感じます。はんわしさんの記事で地元民としても、過去にどのようなことがあったのか知ることができ、同時にこれからの動きにも関心を持つようになりました。
これからも、神宮の姿を多面的にとらえていただくことを期待しています。

注:このコメントは、公開には適していないかもしれませんので、個人的な感想として受け取っていただいて結構です。(伊勢の片隅より)

半鷲(はんわし) さんのコメント...

 コメントいただきありがとうございます。「変容する聖地 伊勢」はわしも読んだことがあり、このたびの仏都伊勢の関連記事はこれに示唆される部分が大きいです。
 伊勢神宮では遅くとも平安時代には神仏習合が常態化しており、こうした長い歴史を経て、今日の伊勢神宮の姿に至っている(それはたかだか明治以降100年ほどのことです)ことは市民の方、参宮客にも知っていただきたいですね。