2017年5月8日月曜日

仏都・伊勢を往く(神宮寺編)下

(承前) 仏都・伊勢を往く(神宮寺編)上

 海徳寺は名鉄碧南駅から歩いて10分ほどの場所にありました。
 この付近は「大浜てらまち」と呼ばれているようで、確かに立派なお寺がたくさん建っています。かつてのこの町の繁栄ぶりが偲ばれます。
残念ながら今は地方都市特有のやや寂れた ~人通りがほとんどない~ 雰囲気もありますが、お寺のウォーキングイベントの定期開催など、寺町であることを活用した活性化の取り組みも進んでいるようです。そのためか街なかの標識や案内板は大変充実しており、これは伊勢志摩も見習うべきと思いました。
 さて、海徳寺は室町時代に創建された浄土宗のお寺で、江戸時代には徳川家の御朱印寺(徳川家から寺領を安堵されたという意味でしょうか?)として栄えたそうです。

 お寺に近づいていくと、塀に「丈六阿弥陀如来坐像」という大きな看板が掲示されています。地元の方々からは「大浜大仏」と呼ばれているそうです。


 境内に入ると立派な山門があります。なぜだか ~というか、明らかに後世の道路建設の関係で~ 山門が道路を向いていないという変則的な立地です。もはや門ではなく門の形をした建築オブジェともいうべき状態になっています。


 奥に見えるのが本堂。入母屋造りというのでしょうか、非常に立派な建物です。


 本堂前の掲示板には丈六仏渡海の由来が書かれています。これによると、当時の住職であった寂空和尚も神宮寺の仏像引き取りに尽力されたようです。


 本堂周辺はひと気がなかったのでお墓参りしている方に聞き、誰でも拝めるということだったので本堂に入らせていただきました。堂内は撮影禁止です。

 入った途端、金色の大きな阿弥陀仏が目前に飛び込んできます。
 丈六仏とは仏像の大きさの規格で、高さが1丈6尺(約4.8m)のものをいいます。この像は座像なので半分の約2.4mの高さですが、優に人間の身長を越えており、しかも光背もあって、床から光背の先端までは7mにも達していて「巨大」という表現がぴったりです。これを明治初年に人力のみで舟で運んだとはにわかに信じがたいほどです。
 よく見ると光背は本堂の天井高に収まりきらず、先端部は天井の板が外されて、天井裏にまではみ出しています。先に本堂があって、後からこの丈六仏が運ばれた証左でしょう。
 
 この像は寄木造の木像ですが、平成14年に文化庁の本格的調査が行われており、像内と台座から造像当初のものと、修理時のものの2つの銘文が発見されました。
 これによるとこの像は良仁上人が願主となり1134年(長承3年)4月から制作が始まり、翌年に漆工が、翌翌年(保延2年)に箔押しが行われました。なぜ製作に3年も要したかですが、この時期(長承2年~保延元年)は伊勢神宮の式年遷宮に当たっており、造像と遷宮諸行事の進展を合わせたものと推測されるそうです。(伊藤史朗「伊勢・菩提山神宮寺旧在の仏像」)
 良仁は伊勢参宮名所図会では神宮寺を再興した僧として紹介されますが、再興と造像の時期の記述が50年ほど食い違っており、当然銘文の内容が史実と思われるとのことです。
 
 さてこの像、胸には逆卍印があり、上品下生印という印相を結んでいます。
 と文章で書いても伝わらないので、何かいい写真がないか探したところ、愛知県の文化財ナビ愛知に写真と解説があったので引用しておきます。 


 ただ実際に海徳寺に行くと、像は光背を負い、蓮華台に乗っているのでかなりの迫力があって、この写真とはだいぶ印象が違うことは繰り返しておきます。
 海徳寺にはほかにも仁王門の金剛力士像が山門に、不動明王立像と毘沙門天立像が境内にある一行庵にそれぞれ安置されており、それ以外も多くの仏像が檀家に配布されたそうです。
 廃仏毀釈の嵐の後、伊勢でも極端な廃仏は見直されていくつかのお寺は復興しましたが、大浜に運ばれた仏像が返却されることはありませんでした。

 平成15年には国指定重要文化財となるほど価値があった阿弥陀仏。もし今でも伊勢のお寺で祀られていたら、神宮の守護仏として多くの崇敬を集めていたことでしょう。
 伊勢で廃仏毀釈を推し進めた度会府知事・橋本実梁(さねやな)をはじめ、役人、神職らの短慮と無知が今となっては悔やまれるばかりです。
 このような原理主義者に権力を与えてはいけないというのが、この一件から学べるせめてもの教訓でしょう。

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

はんわし様、たいへん貴重なブログを読ませていただき伊勢市民として率直に感激です。以前これも祖父から明治時代に潰された伊勢のお寺から仏像が三河地方のお寺に売却されたという話は聞いたことがありましたがこれがまさにそのことであったと初めて知りました。まだまだ知らない事は多いです。これからも勉強させていただきます。

半鷲(はんわし) さんのコメント...

 コメントありがとうございました。わしのとっても海徳寺の参拝は、伊勢と三河のつながりを体感できた経験になりました。この神宮寺の話も、どんどんリンクしていただき、多くの方々に知っていただき、実際に訪れていただければと思います。