2017年7月24日月曜日

地域に必要なのは「持続性」である

【読感】 はじめよう、お金の地産地消 木村真樹著 英治出版

 地域経済の活性化、今ふうに言えば「地方創生」がなかなかうまくいきません。その理由は端的に言えば、活性化方策として行政などにより立ち上げられたり、仕掛けられたりする施策が持続可能なものでなく、その場限りで短命に終わってしまう内容ばかりだからです。原因はいろいろで、まず財源や資金が続かなくなるといったお金の問題。他には、施策を続けていくだけの専門知識や人望、行政スキルを持つ人材が役所や地域にいないというヒトの問題。施策のサービス受給者と支援者のミスマッチの問題。などさまざまですが、要は理念や方向性は地域でコンセンサスになっていても、それを実行し続ける仕組み=事業モデルが描けず、かつ機能しないという点が本質的な問題です。
 ではどうすればいいのか。
 有力な解決策の一つは、社会課題の解決をビジネスの手法で行うというコミュニティビジネス(ソーシャルビジネス)です。今や、地域間の競争は、こうしたCBやSBがその地域でどれだけ起業しており、どれほど活発に活動しているかが評価軸になってきており、言い換えるとCBやSBを支える地域システムの有無がその地域が持続するか、衰退するかの分かれ道になっていることに留意が必要です。


 この本の著者である木村さんは、地域に役立つ仕事がしたいと地方銀行に就職したものの、地域で集められる預金の多くが地域外の大都市のビジネスに融資される実態に疑問を持ちすぐに退職。与信リスクが高すぎて一般の金融機関からはほとんど融資を受けることができないNPO ~つまり、CBやSBの有力な担い手~ に対する融資を専門に行う、いわゆるNPOバンクを立ち上げます。
 このコミュニティユースバンクmomoは、創設以来1億4000万円を融資してきましたが、いまだに貸倒れはゼロという、信じがたい驚異的な成果を生み出しています。NPOが寄付金や行政からの補助金に安易に頼ることなく、融資を基に自律的に事業(収益を上げるビジネスとして)取り組み、その結果、生み出した利益をさらに事業に投資していくという、まさに「事業の持続」さらに「事業の拡大」につなげているのは、わしらにとって大きな示唆を与えてくれます。

 タイトルである「お金の地産地消」とは、地域住民が預金や出資した資金が、その地域での有意義な活動に投資され、地域課題を解決したり、地域が活性化したりという結果につながるという、顔の見えるつながりの中でお金が循環していくシステムを言います。
 地方銀行や信金、信組は預貸率の低下が大きな問題ですが、これは金融庁が言うように、自らがリスクを取って潜在的な成長可能性を秘める地元の企業に融資をする姿勢やノウハウが失われつつあるからとも言えます。

 本書の中で興味深いのは、momoが行っている融資審査の方法です。CBなどの担い手は理想は高くてもビジネスの知識は乏しいケースが少なくありません。momoは通常の金融機関のように決算書、すなわちその組織の過去の通知表によって与信を判断するのでなく、将来どうするのか、どうなっているかについて、経営者に丁寧な多方面からのヒアリングを繰り返し、そのNPOの現場に足を運んだうえで、事業可能性に対して融資を行うことが大きな特長です。さらに、momoレンジャーと称する専門スキルを持つサポーターが貸出先の事業をバックアップします。単なる「金貸し」でなく文字通りの伴走者であり支援者になっているのです。
 この独特の審査方法には、多くの一般金融機関の見学や視察が相次いでおり、多くの人たちが「本来、われわれ金融機関の業務はこうあるべきだ」との感想を漏らすそうです。そうあってもらいたいものだと思います。

 もう一点、特にわしが関心を持ったのは、SROIと呼ばれる社会的投資収益率という考え方です。行政機関がその代表ですが、世の中には、もちろんその業務、その施策は社会に役立っているのだけれど、果たしてそのために投入されている予算や人材と見合っているのかがよくわからないという事象が実に多くあります。大義名分上は誰も反対できないので、しばしば行政には非効率や無責任が蔓延します。
 こういった課題への一つの提案が、行政の施策や、CB、SB、ボランティア活動などが実際に社会に与えた成果、影響、波及効果などをお金に換算して「見える化」しようという試みです。
 むろんこれは発展途上の考え方であり、算定方法は試行錯誤の連続です。そもそも見える化など絶対にできない事業も存在することでしょう。しかし、これほど世の中が変わってきた今、不可知論ではなく、社会に有用な行為でも実際にその効果を測定してみようという試みは絶対に必要ですし、避けられないことだと思います。
 実はこのSROIについては以前にもこのブログで取り上げたことがあります。この時も木村さんからの情報提供だったわけですが、わしはその時から3年がたって、SROIももっと方法論が確立してきたのかと思ったのですが、本書を読む限りまだいろいろな議論が交錯している状況らしく、その点がやや残念ではありました。金融工学の手法やAIがこうした分野にも応用できないのだろうかと思います。

はんわし的評価(★★★) 地方公務員必読の書。特に金融の知識は絶対的に地方公務員には不足しているので、CBやSBの実情と共に、良い入門書となる。

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

松阪のうきさとむら夏祭りが今年の開催をもって終了しました。三重県では地域興し活動の草分けだった地域でしたが従事するメンバーが高齢化したためにこれから先の継続が難しいことが理由だそうです。持続性が重要というのはその通りだと思います。

半鷲(はんわし) さんのコメント...

コメントありがとうございます。
 うきさとむらはわしも15年以上前に当時のリーダーの西井さんの知己を得、何度かおたずねしてお話を聞いたことがあります。その時も「いずれ自分たちは引退するので、それまでに次世代の担い手を育てないといけない」とおっしゃっていました。これは並大抵の話ではなく、うきさとのような全国的に注目されたコミュニティビジネスの事例でも、活動が曲がり角に来ているということかと思います。