2017年7月31日月曜日

ナイトタイムエコノミーという劇薬

【読感】「夜遊び」の経済学 世界が注目する「ナイトタイムエコノミー」
 木曽崇著 (光文社新書)
 よく言われることですが、飲食店はどんなにお客が行列していようとランチではあまり儲かっておらず、客単価も利益も高いのはディナー、特にお酒を伴う夕食のほうです。観光産業もそうで、日帰りの観光客が消費する金額はせいぜい飲食代と土産物代くらいなので、本当に観光で儲けようとするなら宿泊客を増やさなくてはいけない、というのもよく聞くセオリーです。
 この本の内容をあえて乱暴にかいつまんで要約すれば、経済低迷にあえぐ「地方」は、消費者や観光客が財布のひもを緩めやすい夜のサービスを充実、多様化させるべきであり、地方都市によくみられる夜9時になると開いているのはコンビニとか飲み屋だけで、お店も観光施設も閉まり、公共交通機関も早々と運行が終わってしまうような現状は、官民が協力して改善すべきだ、ということになるでしょう。
 著者の木曽崇氏は我が国のカジノ研究の第一人者だそうで、この本も最終章は「カジノ」の話になるのですが、全体としてはナイトタイムエコノミーの波及効果や、国内外での取組事例などがコンパクトに紹介されている、良くまとまった本という印象でした。


 木曽さんによれば、日本は伝統的に「日の出とともに起きて働き、夜は寝るもの」という価値観の社会です。これが「日本は農耕民族だから」という説明は眉唾ですが、現実として日本では夜間も活動(仕事など)をしている人の割合は ~総務省の「社会生活基本調査」などによれば~ 徐々に増えてきており、いわゆる夜型の生活を送る人はもはや決して少数派ではありません。
 こうした夜間や早朝にビジネスを行うナイトタイムエコノミーは、主流としてはやはり、飲食や、いわゆる水商売、劇場やライブハウスであることに変わりはないものの、たとえば資格教室やスポーツ、趣味などの「夜の習い事」など新しい形態も生まれつつあります。
 さらに、こうした夜のビジネスだけではなく、回転率が高まることで収益性が上昇する不動産業や流通業、さらにエンタテイメントビジネスにまつわるファッション業界やメディア業界、音響・照明機器業界など、恩恵が波及する業界の大きさも考慮に入れて評価をすべきだと主張します。

 具体的な事例として、川崎市の「カワサキハロウィン」、さらにイギリスで中心市街地活性化策の一環として普及している「飲酒を前提とした夜の街歩き」の促進施策などが成功例として紹介されます。
 逆に、失敗例としては年々規模の縮小を余儀なくされる「神戸ルミナリエ」が取り上げられます。この要因分析はなかなか興味深いので、ぜひ本書を手に取ってお読みください。

 実は、こうした夜の経済の振興策は、これ自体は目新しい提唱ではありません。東京都では猪瀬知事時代に都バスの深夜運転が施行されました。名古屋市もやっていたと思います。また、ダンスホールなどの深夜営業を厳しく規制していた「風俗営業法」が改正(緩和)されたり、政府主導で「ゆう活」や「プレミアムフライデー」など、夜の経済の機運を高めようという取り組みが進んでもいます。
 しかし、深夜バスは多くの都市でうまくいっておらず、東京では休止に追い込まれました。プレミアムフライデーなどはもはや手詰まり感がありますし、夜の街は強引な客引きや「ぼったくりバー」への規制は強化され、消費を活性化する立場と、治安や騒音などを心配する立場とが拮抗している状況です。

 本書のクライマックスともいえる「カジノ」についてもそうで、安倍内閣下で成立したIR法(統合リゾート法、別名「カジノ推進法」)も、シンガポールのように時代の流れだとしてカジノ解禁を英断し、成功しているところもあれば、韓国のカジノのように成功とはいいがたいところもあります。これらは政治家のリーダーシップや、カジノ依存症対策など、国家国民固有の問題と密接に絡んでおり、推進、反対、どちらの立場からも解決が難しい問題になっています。

 わし個人の感想ですが、東京などの国際都市はもちろん、地域(地方)においても夜の経済は必要だし、避けられないと思います。その理由は、日本社会も生活様式は多様化し、住民も観光客も国際化が進んでいるので、夜にこそお金をどんどん使ってもらおうという考え方が遊興的、退廃的と切り捨てられないと思うからです。
 一方で、地域住民にとっては今の静謐な生活環境が悪化するのは耐え難いことです。日本経済はもはやピークアウトしてはいますが、まだまだ産業は盛んで貯えもあり、夜に騒々しく店など開けなくても、今まで通りでやっていけるではないか、なぜ生活環境を悪化させてまで消費を喚起しなくてはいけないのか、という素朴な疑問、反発は少なくないでしょう。

 まずは、美術館や図書館など公的施設の営業時間を延長したりといった、出来るところからの取り組みから初めて、実績を重ねていくしかないでしょう。
 本書の帯には、夜遊びが「経済成長の最終戦略!」などとありますが、これは間違いです。日本は成熟社会に入っており、あらゆる社会問題は複雑に絡み合い、入り組んでいて、一刀両断できる解決策などはあり得ないのです。もし仮に「成長戦略」というものが日本に存在するのなら、十年、数十年スパンで継続して取り組んでいく腰の据わった内容になるべきだし、一年二年で経済成長が実現すると唱える戦略など実質的には無意味であることは、今一度よく考えてみるべきだと思います。

はんわし的評価(★★☆) 事例が豊富。ただし、文明論の部分はやや牽強付会。

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