2017年8月1日火曜日

このコンセプトがそもそもヤバい

 紀南新聞オンラインを見ていたら、世耕弘成経済産業大臣が7月30日、地元の和歌山県新宮市で国政報告会を開いたという記事が出ていました。この記事のまとめ方が上手いのかもしれませんが、経産省の仕事の様子が大臣自身の口から語られていて大変勉強になりました。(7月31日付け「中小企業、経済政策へ力 世耕経産大臣が国政報告」)
 実は今、全国の地方自治体の商工振興担当部門では、先日成立した「地域未来投資促進法」が大きな話題となっており、都道府県や市町村が作成して国(経産省)の「同意」を得なくてはいけない「基本計画」づくりに追われている状況です。
 この地域未来投資促進法が生まれるに至った経緯、言い換えると、この法律の前身であった「企業立地促進法」がなぜ地方経済活性化に失敗し、行き詰ったのかについて、大臣が本音で ~したがって、わかりやすく~ 説明しているので、わしにとってはこれが興味を惹かれたところでした。
 世耕大臣によると(と言うか、紀南新聞によると)以下のようになります。


地域経済活性化については、「国はこれまで企業誘致を図ることで活性化を目指したが、
これからは今ある企業を活性化させることが必要」として、今国会で成立した地域未来投資促進法を紹介。
具体的には、地域経済けん引事業の担い手候補2000社程度を抽出・公表して情報提供を行うとともに、都道府県知事が承認した地域経済けん引事業に対して国から集中的に支援を行う。
 
 これは的を射た説明です。つまり、旧法で目指したのは企業誘致でしたが、経済のグローバル化による水平分業が進む中では、地方で成り立つような部品製造や組み立て作業といった工場は採算が成り立たず、全国的にはほとんど企業誘致が進みませんでした。
 このため国は作戦を変え、今ある地元企業のうち一定の規模を持ち、強い商品(製品やサービス)を持っていて経営も安定している中堅企業を「地域未来牽引企業」と名付けて全国で2000社選定し、こうした企業に補助金や公的融資といった支援策を集中的に投下して企業の成長させ、ひいてはその地域での雇用を増やし、税収も増やそうという目論見の新法の制定につながったのです。

 しかし、全国で380万もある中小企業のうち、2000社というのは本当に選りすぐられたエリート中のエリートの企業です。
 国は地域未来牽引事業の例として、三重県では水産加工業者である尾鷲物産を挙げていますが、市民なら尾鷲物産は市役所を除いて尾鷲市内で最大のガリバー企業であることをよく知っていると思います。つまり、将来を見据えた経営戦略を明確に持ち、設備投資も人材育成も積極的に行って事業の拡大や多角化に長い年月をかけて取り組んできた、それ自体、強い地力を持つ企業です。
 こうした企業に対して、これ以上、何か行政が支援する必要が本当にあるのか、変な言い方ですが、下手に素人の行政が口出ししたり足かせをはめることで、かえって会社に重荷を与えてしまうのではないか?という疑念はどうしてもぬぐえません。

 このように、法のコンセプト自体がそもそも社会主義的というか、行政が民間企業を上から支援してあげる、というもので、世耕大臣が期待するように全国の地方経済が一斉に上向くような成果があるかどうかは疑問だと思わざるを得ません。

 もちろん、旧法に比べて改善されている面もあって、従来は製造業に偏っていた支援対象業種が、「農林水産・地域商社」や「IoT、AIなどの第4次産業革命関連」、「観光・スポーツ・文化・まちづくり」、「ヘルスケア・教育サービス」などに拡充されたのは、社会が成熟化し、経済構造もサービス化した実情に沿った現実的な対応と言えます。
 ただ、これもわしが言うまでもなく、地域商社、観光、ヘルスケアなどは東紀州(三重県南部の、尾鷲市、熊野市、紀北町、御浜町、紀宝町の2市3町からなる地域)でもとっくに取り組まれており、つまりは全国各地でも同じような事業は立ち上がって活発に事業活動しているので、非常に、非常に厳しいレッドオーシャンになっています。ここで少々の行政支援によって市場を勝ちぬくことは容易ではありません。
 しかもその事業者の大多数は「地域未来牽引企業」に該当するような規模ではありません。小規模な事業者は、法文を読む限り地域未来投資促進法の支援対象ではないので、結局は既存の制度しか活用できそうな支援策はありません。
 つまりは、法律が実際にスタートしてみないと、地方経済にとってトータルでプラスになるのか、マイナスになるのかはわからないのです。

 こうして自信満々に語っている世耕大臣自身、もう間もなく行われるという内閣改造で、経産省を離れるかもしれません。そうなればまた、この種の話も空手形になってしまうかもわかりません。

■はんわしの評論家気取り
 尾鷲市では、以前にも国の4省が経済活性化を集中支援すると称して結局失敗しています。
 手を変え、品を変え(2014年5月30日)
 
 無知は罪(2016年3月23日)

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