2011年2月26日土曜日

創業塾はなくなるのですが

 平成22年度実施分を持って、全国の商工会議所や商工会が主催する創業塾事業は終了します。これは昨年行われた経済産業省による自己事業仕分けによる決定によるものです。

 仕分けられた主な理由は、民間のコンサルタント会社などでも創業塾に類似した事業は行われていること。さらに、実際にどれくらい操業が増えたかという事業の効果も判然としないため、政府が商工会議所などに助成してまで創業塾を継続する必要性が低いというものでした。

 実はこの2つとも以前から関係者の間では指摘されていたことです。
 創業塾の受講料は全国一律5000円となっていて、実際の講座内容に比べて「激安」です。これは受講生のすそ野を広げるのには役立ちますが、冷やかし、無気力な受講生も招いています。もし本気で起業・創業したいなら、必要な知識を一通り学べる創業塾は10倍の5万円でもむしろ安いはずです。

 たとえば、NPO法人起業支援ネットが数年前から実施している「起業の学校」が参考になるでしょう。
 7ヶ月間にわたる全15日間の日程で、受講料は16万3千円。純粋の民間ベースの事業ならやはりこれくらいになるのが普通なのです。
 この起業の学校は、対象をコミュニティビジネスに限定してはいますが、学ぶ内容は創業塾とほぼ同じようなビジネスの立ち上げ基礎に関するものです。
 しかしこの「起業の学校」のカリキュラムでは、起業の学校OBの先輩企業家などとのネットワーク構築を大変重視しています。何かにつけて幅広い人脈は有効だからです。

 これに比べ、多くの商工会議所などは、創業塾を実施したあとのフォローをあまり行っていないように見受けられます。
 せいぜい受講の感想のアンケートをとるくらいで、受講生が半年後、1年後、2年後、3年後、どのような状況にあるのか、モチベーションはキープされているのか、ボトルネックとなっている課題は何か、ということもほとんど把握していません。(もちろん一部の商工会議所などの例外はあります)

 なので、表現は悪いですが「やりっぱなし」になっており、~創業は決して半年一年の短期決戦とは限りませんが~、実施した効果がよくわからないのは事実だと思います。データがないのですから判断のしようがないのです。

 実はこの、「判断のしようがない」というのは曲者であって最大の問題です。政府が助成する事業(この場合は商工会議所、商工会に)は、スケール的に、あるいは採算が取れないなどの理由でそれが民間ではできないはずだからです。

 そもそも、それが行政の仕事か、民間の仕事かは、①その事業の効果がきちんと測定でき、かつ、②それが客観的な基準に基づいて有効か無効か判断できる、という2つの要件が不可欠のはずです。
 ところが今政府がやっている事業は、創業塾に限らず何につけ、この2つの要素が欠けていて、果たして何のためにやっているのかがわからない事業が多すぎるのが実態です。

 どこの商工会議所・商工会にとっても、来年度以降、創業支援を具体的にどう行っていくかは大きな課題となっていることでしょう。はんわしも少なからず関わってきたため、その危機感はよくわかります。
 しかし同時に、その効果測定と客観的な評価の方法もセットであらかじめ考えておくべきです。

2011年2月25日金曜日

Googleが検索アルゴリズムを変更

 Yahoo!ニュースIT media NEWS)によると、米Googleが2月24日、検索アルゴリズムの大幅な改良を明らかにしたそうです。まず米国で導入し、その後ほかの地域にも拡大する予定とのこと。

 同社によると、今回の変更の目的は、質の低いサイトの検索順位を下げるためであり、ユーザーへの付加価値が低いもの、ほかのサイトのコンテンツのコピー、あまり役に立たないサイトなどを排除し、反対にオリジナルのコンテンツや、調査、掘り下げたリポート、徹底した分析などの情報がある質の高いサイトの順位は高くなると説明しています。

 この改良は実に検索クエリーの11.8%に大きな影響を及ぼすとのことですが、以前このブログでも書いたように、Google Danceによって今まで有効だったSEOが一定期間、まったく無力化してしまうことに苛立ちを覚えるECオーナーは今もかなりいると思います。

 ICT技術は日進月歩なので日々勉強ですが、今回のアルゴリズム変更も要注目です。今までの集客パターンが大きく変わってしまうかもしれません。

 ひょっとすると、北アフリカやアラブ、中国などの非民主国家での浸透をより強化しようとしているのでしょうか??よくわかりませんが・・・

2011年2月24日木曜日

三重県立相可高校の高校生レストランがドラマに!

 今間違いなく、三重県で最も注目され、実質的に入学が最難関の高校は、三重県立相可(おうか)高等学校でしょう。
 ここには今や全国区で有名となっている食物調理科というコースがあります。

 同校のホームページによると、
 食物調理科は、調理師やパティシエ、地域における「食」のリーダー、すなわち「食」のスペシャリストを目指して技術力・経営力・商品開発力・コミュニケーション力の育成に力を注いでいるコース
 とのことで、現在約120名の生徒が在籍しています。

 担任教諭である村林新吾先生のバイタリティあふれる人柄も手伝って、食物調理科は地元食材を使ったメニューの開発など、地域とコラボした活動にも熱心に取り組んでおり、平成14年には、公立高校としては極めて珍しい直営のレストラン「まごの店」まで運営するなど、地元では活躍が広く認知されています。(このまごの店、土日のお昼限定営業ですが、本当に流行っています。)

 さて、その相可高校が、日本テレビ製作のテレビドラマで取り上げられることになりました。
 主演はTOKIOの松岡昌宏さん。放映は土曜日の夜9時からというゴールデンタイムでの登場です。

 おそらく・・・松岡さんが主演だということで(モデルは多分村林先生なのでしょうけれど、ビジュアル的には相当違っています。)、不良生徒が跋扈する三流高校に熱血新任教師が赴任し、教育を通じて料理人魂を生徒に伝え、それによって生徒も立ち直ってゆく・・・みたいなステレオタイプの大映テレビ的なストーリーがすぐに頭に浮かびます。残念なことにこの直感はきっと的中するのでしょう。
 しかし、かつて日テレの土9からは「女王の教室」のように教育問題に一石を投じた問題作も生まれているので、その方向にちょっと期待してみたい気もします。

 いずれにしろ、相可高校がある地元、三重県多気町はちょっとしたフィーバーになっているそうです。

 ■日本テレビ 高校生レストラン http://www.ntv.co.jp/kouresu/index.html

 ■三重県立相可高校 http://www.mie-c.ed.jp/houka/index.html

 ■高校生のレストラン「まごの店」 http://jr2uat.net/mago/mago.htm

<5月7日追記>
 「高校生レストラン」第1回目が放映されました(2011年5月7日)

2011年2月23日水曜日

「経済産業省が農業支援策」の不思議

 経済産業省が22日、国内農業を産業として成長させるための支援策をまとめたとのことです。 
 新聞報道によると、
1 経営支援のための中小企業政策の活用
2 製造業の技術や経営改善などの経営手法の導入
3 アジア市場への農産物の輸出促進
 を3つの柱とし、農業の生産性の向上と農家の経営安定を目指すというものだそうです。

 具体的な手法として
・農業法人に対して出資するファンド(基金)の設立
・農地の集約化のための合同会社(LLC)の活用
・商工会議所などの中小企業支援機関が農家を支援するスキーム構築
・地元農産品をPRするプロデューサーの育成
 などなどの事業に取り組むそうです。
(ちなみに合同会社とは、株式会社と同じように出資者は有限責任ですが、株主総会や監査役の設置といった株式会社では必須とされている規約を、株主の総意で変えることができるという、柔軟なスタイルの会社組織のことです。このLLCを活用して農地集約に取り組みやすくしようという考えのようです。)

 農業は国に強力に保護されているため、特に米作などの分野は国際競争力がなく、生産性(生み出した付加価値額を、それに従事する労働者数で割った数値)もグローバル競争している製造業などに比べて非常に低いという問題があります。
 将来への展望も見出せないため若者の新規就農も少なく、ますます保護主義に走る、という悪循環に陥っており、農業従事者の平均年齢が60歳代後半であることから、あと10年で日本から農家はなくなるという可能性さえささやかれています。

 この活性化のためには、製造業の効率的な生産ノウハウの導入や、ITの活用などは必須ですし、流通形態の効率化も重要です。マーケティングの重要性も再確認されるでしょう。
 その意味では今回の経産省の支援策案は、的を射た内容だと思います。

 ただ、日経新聞も指摘するように、内容の多くは既存の中小企業支援策を農家に拡大適用するもので、農業にとって最大の問題である農協改革や農地法改正といった「斬れば血が出る」難問はスルーしてしまっており、いかにも机上で作った模範解答という感じが否めません。一言でいうと迫力が欠けているという気がします。
 実際に、新聞記事からは、この支援策がいつから、どのように着手されるのか、予算はいくらぐらいなのか、などの具体的な内容は読み取れません。

 そして、おそらく誰もが思う最大の問題は、なぜ経済産業省が農業支援を行うのか? ということです。(もちろん、TPP参加が現実的になってきた中で、TPP後をにらんでのことなのは間違いないでしょうが。)
 
 省庁は縦割りの弊害が指摘されており、よく官僚は「省益あって国益なし」などと批判されます。
 しかし、彼らにとっては自省の省益こそが国益なのであって、省益と国益は全くイコールなのです。農業支援策を提案した経産省の官僚も「自分は国のために真剣に産業振興しようとしているだけなのに、なぜ経産省が農業振興してはいけないのか」と不思議がっていることでしょう。
 
 問題なのは日本が成熟国家になるにつれて、かつての高度成長を牽引したと自負する経産省の役割自体が次第に縮小していることです。
 日本経済はグローバル化し、国内産業界の利害調整をする従来の手法では存在感は低下するばかりです。仕方がないので(というか、やることがないので)最近は厚生労働省の業務と重複するような産業人材育成事業とか、本来は地方自治体の仕事であるはずの地域資源活用や企業誘致といった業務にまで触手を伸ばし、あれもこれもでわけがわからない省庁になってしまっています。

 今回の農商支援策はちょうどいいタイミングです。農林水産省と経済産業省は合体して「産業省」とか、「農林水産商工省」とかになってはどうでしょうか。21世紀の日本のためにも。

2011年2月22日火曜日

「ふるさと」が消えていく

 JAF Mateの3月号の特集は、「ふるさと」が消えていく 過疎集落の現在と未来 と題された、いわゆる限界集落の特集でした。

 日本最大のユーザー団体であると言われているJAFですが、その機関誌JAF Mateには、自動車や交通問題を中心として社会派の読み物も時々掲載されており、クルマの故障のような本来の業務ではめったにJAFのお世話にはなったことがないはんわしですが、これだけでも年会費を払っているメリットはあるのではないかと思っています。

 一般的に地方の過疎化は、
・高度経済成長による工業化の進展によって、農山漁村から若い働き手が多く都市部へ移動し、
・その結果、効率の悪い中山間部の農林業や辺地の漁業がますます衰退し、
・地域には高齢者だけが残り、コミュニティの維持すら困難になっている
 というストーリーで語られます。

 しかし、注意が必要なのは、いわゆる過疎地域を振興するための政策上の根拠とされる過疎法という法律の定義は、長い日本の歴史においても農山漁村地域に特異に人口が集まっていた終戦直後を基準にして制度設計されており、そもそも実態に合っていなかったという指摘もあることです。

 また、これも経験的によく知られるように、過疎地域の若者は地元の職がないため泣く泣く故郷を後にした、という話は実は真実ではなく、むしろ田舎特有の地縁血縁で縛られた閉塞社会に比べて自由な都会のほうが数段魅力的であり、個人としての能力が遺憾なく発揮できたためである(=したがって若者たちは好き好んで故郷を後にした)という冷厳な事実もあったことです。

 それはさておき。
 JAF Mateでは、
・町職員が地域分担を決めて高齢者世帯を訪問する活動を行っている事例(高知県大豊町)
・地域で唯一となったガソリンスタンドを守るため地域住民が出資しあって運営会社を立ち上げた事例(高知県四万十市)
・過疎集落を定期的に巡回している移動スーパーの事例(鳥取県日野郡)
・そして公共交通空白地帯で村が運営しているオンデマンドバス(東京都桧原村)
 の4つのルポが掲載されています。
 いずれも非常に興味深い事例であり、形はさまざまとはいえ、それぞれの住民たちには郷土で暮らすことへの誇りが強くあることが良く理解できます。

 これら限界集落を守るために、「行政がもっと支援するべきだ」という意見は必ず出てくるし、事実、桧原村のように公営の事業が大きな役割を果たす面もあるのは事実です。
 しかし、同時に、行政があまり先走り、しゃしゃり出ていくことが100%の解決につながるとは限りません。行政のサービスは公平である反面、硬直的で非効率となることが避けられないからです。

 ここはやはり、このような地域課題の解決にビジネスチャンスを見出すコミュニティビジネスの出番ですし、利益と課題解決の両立を目指す社会起業家(ソーシャルアントレプレナー)を育成し、支援し、彼らの活動を資金面ではなく、事業のPRや社会的信用の付与、必要性の低い規制の緩和など、側面から支えることが行政本来の役割ではないかと思います。
 このあたり、JAF Mateも冷静な問題提起をしているのは好感が持てます。

  

2011年2月21日月曜日

パンダは猛獣である

 中国・四川省からやって来たパンダがもう間もなく上野動物園に到着するようです。
 日本に初めてパンダが来たのが1972年のこと。当時、はんわしはまだ小学生だったわけですが、日本中がパンダブームの熱狂に陥ったことがありありと思い出されます。
 その背景には田中角栄と周恩来を立役者とした日中国交正常化があった(パンダのランランとカンカンは、それを記念して日本の「人民」に対して中国「人民」が贈るプレゼントという扱いだったそうです)ことなど知る由もありませんでした。

 今回やって来るのはオスの比力(ビーリー)と、メスの仙女(シェンニュ)。
 ただし、パンダは希少動物のため中国政府は売買を認めていないとのことで、上野動物園にも2頭を10年間貸し出すという約束だそうで、その代金は1年あたり8千万円とのこと。
 72年の初来日の時は、このあたりの金銭的な問題はどうなっていたのでしょうか。これも子どもにとって知る由はなかったので・・・。

 ところで、はんわしの携帯電話の中に、4年前に上海動物園に行ったときのパンダの動画が残っていました。
 あの時、たまたまパンダのコーナーには人があまりおらず、ほとんど貸し切りのような状態だったのですが、このパンダは何か悩みでもあるのか落ち着かない様子で、鼻息をフーフー立てながらオリの中をノッシノッシと歩き回っていました。



 一瞬パンダと目が合った(何せガラス1枚を隔てているだけなので、距離的には50cmくらいしか離れていなかった)のですが、パンダの真っ黒く小さな瞳には感情がまったくなく、こちらを何かの「物体」としてしか認識していないことは明らかでした。
 犬とか、猫にはもう少し目の表情というものがあります。
 
 オリにはこのパンダのほか、エサの竹を、まるでポッキーか何かのお菓子のように、こともなげにポリッと手でへし折り、バリバリモグモグと食べるパンダもいて、こいつらは外見が可愛らしいというだけで、実は猛獣であるということがよくわかった体験でした。

 それにしても中国は、尖閣諸島の外交問題などにはコワモテを使う一方、パンダのようなおよそ猛獣らしくもない、滅茶苦茶にかわいく、愛らしい動物を外交手段に使って日本国民の篭絡しようとしてくる。
 硬軟取り混ぜる、恐るべきネゴシエーターというべきでしょう。

2011年2月20日日曜日

新産業創造などというかけ声の前に留意すべきこと

 中小企業関係者と話していると、今のこの景気状況は何とかならないか、という話題によくなります。その時、話の展開はおおむね2つのパターンがあります。
1 もっと国や県が中小企業対策をしっかりやってほしい、というもの
 官公需の発注を増やすとか、今後この分野の産業が伸びるという展望を示して、その分野に集中的に支援するとか(いわゆる成長戦略ですね)
2 行政には大して期待していないが、ヤル気がある企業には支援してほしい、というもの
 研究開発への補助金、設備投資に対しての優遇措置、人材確保、販路開拓支援など

 特に、1の後段、行政による、いわゆる成長戦略支援への期待は非常に根強いものがあります。
 いわく、中小企業(主に製造業)は技術力は高い。しかし、自社ブランドの商品を開発・販売する能力まではないので、自動車や家電に代わるような新しい成長産業を行政や大企業が創出し、中小企業が活躍できるようにしてほしい、というものです。
 中小企業は経営資源が限られており、研究開発や営業まではなかなか取り組めないところも少なくはないので、現実問題としてこのような声はもっともな部分があります。

 しかし、高度成長期のような時期にあっても、自動車、家電、ロボット産業などはマーケットでの激烈な競争の結果、強い国際競争力を得たのであって、国の産業政策(支援や保護)とはほぼ無関係だった、というのが経済学者の間では有力です。
 むしろ、化学、航空機、コンピュータ、金融サービスなどは良くも悪くも国の強い関与があった結果、国際競争力は相対的に劣っていると考えられるそうです。(たとえば、この本とかも同趣旨)

 そう考えると、最近流れた、次のような報道もむべなるかな、と思ってしまいます。

・214事業、大半の効果不明確=バイオマスで改善勧告―総務省
 総務省は、政府のバイオマス・ニッポン総合戦略に基づいて実施された214事業のうち、農林水産省や経済産業省などが実施した大半の効果が不明確だったと発表した。
 同戦略は、家畜の排せつ物をエネルギー源に転換するといったバイオマスの利活用推進を目的にしているが、国の補助金などを受けて整備されたバイオマス関連施設132カ所のうち、CO2の削減効果を数量的に把握していたのはわずか3施設だった。(2月15日付け時事通信より)

・風力発電 空回り―伊勢市
 伊勢市が費用負担して、平成17年に市役所や市立中学校など4カ所に設置した小型風力発電装置を来年度撤去することに決定した。
 これはシンフォニアテクノロジーと同市が共同研究によって開発した縦型の風力発電装置で、一般的な(プロペラ型の)風車と異なり、風がどちらの方向から吹いても回転することがふれこみ。
 しかし、発電した電力を蓄える予定だったバッテリーに不具合が生じ、市役所に設置された装置は4年後には停止。他の装置も維持費のほうがかさむ状況となってきたため、撤去が決まった。もともと風力が弱く発電効果が薄かった。(2月18日付け朝日新聞より)

 両方とも、なんじゃこりゃ? という話ですよね。

 中小企業支援は、中小企業の育成を通じて地域雇用を守るという大義名分がまだあるとは思いますが、それにしても行政の役割「だけ」に期待すると非効率も多く、将来性を見通す力にも限界があること、やはり基本的には民間の創意工夫、機動力、企業家精神が重要であること、には留意すべきでしょう。

2011年2月19日土曜日

もし赤字国債を否定したら・・・

 政治経済分野で常に鋭い意見を表明している藤沢数希氏がブログに面白いことを書いておられました。
 揉めに揉め、混迷と不透明度が高まっている菅内閣の国会運営ですが、このまま野党は2011年度の政府予算案を否決してはどうか、というものです。(リンクはこちら

 これは、過激な論には違いありません。しかし、財政的には正論だと思います。

 財政学の教科書には「財政は単年度収支均衡が原則である」と書いてあります。つまり2011年度に使う国の支出は、2011年度に集められる収入(税金とか)の範囲でまかなうことが常識なのです。

 ただし、例外があって、その一つは道路とか大きな公共建築物など、作ってから何十年間も使えるようなものは、その年の収入だけでまかなわなくても、のちの子孫にも負担してもらっていいであろうということで借金(建設国債)で作ることができる。これは、なるほど理屈です。

 もう一つの大きな例外が、建設目的ではなく、支出に対して収入をどうしても工面することができず、その穴埋めをするためにする借金(赤字国債)です。

 こちらは財政原則の例外中の例外なので、特別に法律が必要で、日本は2001年度予算から毎年、「赤字国債を発行できる」という特例法を更新し続け、穴埋めの借金をし続けています。

 藤沢さんの説は、仮に国会で予算の政府原案が成立しても、借金特例法といった関係法律はねじれ国会のために成立しないので、赤字国債抜きのまま財政運営をしなくてはならない。そうなると社会は大混乱するであろうが、これくらいの荒療治をしないと財政赤字を削減していくきっかけにはならない、というものです。

 これを三重県に置き換えてみましょう。
 先日、三重県も2011年度の予算案を公表しました。現知事は今年度いっぱいで退任されるので、予算は「骨格予算」とよばれる仮置きの予算です。内容は、新年度からすぐに支払わなくてはならない人件費とか医療、防犯・防災業務などの経費が中心。
 知事の政治的な判断や裁量が大きい政策的な経費は、新しい知事のもとで議論して、6月以降の補正予算で増額対応しようというものです。

 ではこの予算案の中身を見てみると、県の一般会計予算(6506億円)は、さすがに国ほど借金依存ではありませんが、それでも1104億円、約17%は財源が県債です。
 このうち建設国債に相当する部分が500億円ほどあるので、問題になる赤字国債は  600億円(財源全体の約9%)となります。

 ただ、留意すべきなのは、県の場合は、赤字国債の返済を全額県が行う必要はなく、国が一部を肩代わりしてくれる仕組みもあることです。はんわしも完全に熟知しているわけではないのですが、簡単に言うと、一定の要件を満たした場合には、県が県債の返済をした、その返済額の何パーセントかを、国が地方交付税で県にバックしてくれるという仕組みです。
 (国が県に優しくしてくれるこの仕組みが、県が気軽に借金してしまう・・・肩代わりしてくれる面倒見のいいアニキがいるのですから!・・・甘えの遠因だというのが地方自治論の定説ではあります。)

 さて、ここで、ねじれ国会と同じように県議会が県債の発行を否決したらどうなるか、あるいはこの財政窮乏のおり、政策的な経費など不要だと新知事の補正予算案を否決したらどうか。

 赤字県債は9%、骨格予算は対前年度4%ほどの減ですから、大きな違いはありますが、それでも4%にしろ、これだけの歳出カットは近年にない緊縮財政になります。
 県の支出の35%近くは職員の人件費が占めます。県職員の給与カットも断行せざるを得ません。きっと大混乱となって不測の事態も起こりうるでしょう。
 ただ同時に、これくらい本気にならないと、地方財政とてこのままでは破綻してしまうことも明らかです。
 財政再建の強い意思を県民に示し、改革を断行するためにも、県議会議員のみなさんはぜひ前向きに「2月議会での当初予算案の否決」もしくは新知事は「6月補正予算はしない公約」を考えていただいてはどうでしょうか。

 余談ですが、県HPを見ると「第十三次緊急雇用・経済対策」などと書いてあることに気づかれるでしょう。
 エジプトのムバラク前大統領は、権力掌握以来30年間も非常事態宣言を出し続けていたそうですが、三重県が「緊急対策」を足かけ3年間、追加補正予算を13回も行い続けるということは、もはや事態は「緊急」なのではなく「恒常的」な「日常」になってしまっているということです。
 行政の財政支出によって景気が短期的に回復することは、きわめて難しいというのが世界的な趨勢です。三重県も、今まで12回続けてきても効果が薄い雇用経済対策など、全廃してもかまわないのではないでしょうか。(それだけで何億円も節約できる)

2011年2月18日金曜日

コミュニティビジネスは本当に「ビジネス」なのか?

 コミュニティビジネス(CB)についてある人と話していたら、CBは本当に「ビジネス」なのだろうか? という話題になりました。

 ある三重県内のコミュニティビジネスの事例について、これは三重県発の、日本でも有名な成功(だとはんわしは思っている)事例なのですが、実は収益の3割近くは行政からの補助金であって、これほど行政に依存しているビジネスモデルは自立的なビジネスではないのではないか、という指摘です。

 これは一見もっともですが、しかしよく考えると、例えば学校法人とか社会福祉法人のような、ビジネスを行う非営利団体に対して、その公益性から多額の補助金が交付されている例は少なくありません。
 たとえば、インターネットで財務諸表が公開されている私立大学を2~3見ても、収益の10%~20%くらいを国庫補助金、地方自治体補助金が占めていました。おそらく福祉、医療などの分野でも、収益の一定割合が補助金という例は少なくないと思います。

 念のために付け加えると、「ビジネスを行う非営利団体」とは、株式会社のように営利を最大化することが目的で、かつ余剰利益は株主に配当するという団体ではなく、ビジネス(つまり教育とか介護のような事業)から生まれた収益は、再びその事業のために自己再投資することが決められている団体のことを言います。

 コミュニティビジネスは、ビジネスの手法によって地域の課題を解決することが目的なので、事業主体も、会社あり、NPOあり、組合あり、とさまざまです。
 したがって、ビジネスである以上は、すべての費用を収益でまかなえることが望ましいのはもちろんですが、それが難しい場合もあります。
 そのような場合に、行政の支援を得たり、他の会社や住民から寄付を受けたりして収益を確保することは、CBという括りにおいてはむしろ合理的なポートフォリオだというのがはんわしの意見です。

 このことは、CBの分野における第一人者の、NPO法人CBS(コミュニティビジネスサポートセンター)代表理事の永沢さんなどもよく言われることです。
 永沢さんの話では、成功している(活動が持続している)CBの多くは、収入のバランスをうまく取っているそうです。つまり、「自主事業」「会費」「寄付」「委託事業」「補助金・助成金」の5つでポートフォリオを作っているそうです。

 最初の問題提起に戻ると、ビジネスである以上、「商人道」を全うする意味からも自主自立、つまり顧客からの売り上げで成り立たせるのが本筋なのはもちろんなのですが、地域の課題を地域に支えられて解決するコミュニティビジネスの場合、ビジネスモデルとしての合理性があれば、行政や民間に補助金や寄付金の形で頼ることがいけないとは、一概に言えないのではないかと思います。

 

2011年2月17日木曜日

紀宝町の「鳥インフルエンザ」殺処分完了

 三重県庁が2月17日に発表した「紀宝町における高病原性鳥インフルエンザの発生に伴う対応について(第7報)~防疫措置の状況について~」によれば、、17日の午前7時45分に全ての鶏の殺処分が終了
したとのことです。
 殺処分の作業は16日の午前3時50分から、総勢332名の県職員を投入して行われました。処分羽数は65,056羽に上ったそうですから、いくら交代とはいえ、よくテレビで見るあの作業を28時間ぶっ続けで行ったのは本当に大変だったと思います。

 今までよくよく考えたこともなかったのですが、県の家畜保健所に普段あれほど多くの職員はいないわけですから、作業に携わったほとんどの職員は、他の職場から動員された事務職員などであることになります。
 実際、はんわしのところにも15日の夜、明日(16日)の午後から紀宝町まで作業にいけるかどうか確認の電話がありました。
 わしはたまたま他の用務と重なったためいけなかったのですが、県庁から作業に行った人に今朝聞いた話では、やはり体力的にも精神的にも相当タフな業務だったようです。

 もちろん、一番の被害者はわずか数日で生活の手段を失ってしまう養鶏農家には違いないし、命を奪われてしまうニワトリもかわいそうだと言えばそうですが、殺処分に動員される県の職員にも本当に同情しますし、心からねぎらいたいと思います。誰もやりたくない仕事を、郷土を守るために彼らは見事にやり遂げたのですから。

 複雑な気持ちになるのは、昨日は知事が現場を視察したことなどもあって、盛んに紀宝町の作業の様子がテレビ報道されていましたが、それを見ていた視聴者から、県職員の服装が乱れている(防災服のエリを立てて着ているとか、上着のすそをズボンから出しているのは見苦しいとか)との指摘、苦情が少なくなかったらしいということです。

 自分は絶対安全圏内にいて、テレビの画面に向かってあーだこーだと公務員の些細なミス(いや、服装などミスともいえません)をあげつらい、それでは収まらずに電話までしてくる。
 日本という国は、いつからこんなふうに、自分の感情がコントロールできない人が多くなってしまったのでしょうか。自戒の念も込めて猛省したいと思います。

2011年2月16日水曜日

いま話題沸騰!「三重のCB(コミュニティビジネス)」

 前回のブログでも書いたように、日本の人口オーナスが不可避である以上、社会のあり方、経済のあり方にも大きな変革が求められていることはもはや明らかです。

 未来は今までの延長線上にあるのではなく、まったく新しい形、予測もできないスピードでやってくるのでしょう。その予兆をキャッチすることが必要です。

 地域に山積している数多くの課題。
 介護、教育、子育て、防犯、過疎化、高齢化、国際化 etc・・・
 個人で解決できるものはたかが知れているし、それでは今までのように行政が税金を使って解決できるかというと、住民の価値観やライフスタイルが多様化している中では公平公正な(逆に言えば画一的、硬直的な)対応では、それも難しい。

 そこで、地域課題の解決をビジネスチャンスと捉え、サービスを顧客に提供することで対価をもらい、持続的な活動にしていくという考え方が広まりつつあります。

 ごく簡単に言ってしまうと、これが「コミュニティビジネス」と呼ばれるものです。

 つまり、地域課題の解決を、地域の住民が中心になって人、モノ、カネといった資源を持ち寄り、ビジネスの手法によって行う事業活動のことです。

 今の日本社会の閉塞感は、一人ひとりが、なんとなく居場所がなく、他人から感謝される機会もないことから、生きがいやつながりを見失ってしまっているためだとよく言われます。
 地域課題の解決なら、ボランティア活動でも立派にその役目を果たします。しかし、これは無償の熱意に支えられているため、長続きしにくく、持続性が弱いといった問題も見られます。

 その意味で、地域課題解決でビジネスモデルを作り上げるためには、事業の理想や理念を強く持つと同時に、経営者としてのアントレプレナーシップや経営センス、経営ノウハウ、そしてさまざまな協力者とのパートナーシップが必要です。

 コミュニティビジネスは人口オーナス下の日本社会では不可欠なビジネスですし、他の先進国ではすでに常識であるように、非営利セクター(NPOのような)であっても優秀な人材が就職し、生計を立てていけるようにしていくことが絶対に必要です。

 このようなコミュニティビジネスは、実は三重県でも数多く実践され、たくさんの成功例が生まれています。
 これらの情報や実例は、なかなかひとつにまとまって提供されていませんでしたが、このたび三重県が「三重のCB(コミュニティビジネス)」として一冊の冊子にまとめたものを刊行しました。

 地域課題の解決に取り組む経営者たちの熱いストーリーが満載されており、地域の底力を実感します。コミュニティビジネス、ソーシャルビジネスに関心がある、創業希望者、経営者、支援者、学生の方、そして地域が抱える課題の解決に関心があるすべての方に、ぜひ手にとってご覧いただきたい内容です。
 これは本当にお薦めします。

■三重県ホームページ(無料配布の申し込み方法あり)
  http://www.pref.mie.lg.jp/TOPICS/2011020085.htm

2011年2月15日火曜日

三重県中南部の異常な大雪に泣く

 このトシになると、「生まれて初めて」という体験は、人生においてほとんどなくなります。
 もしあったとしても大腸カメラの検査とか、なるべくなら経験したくなかった、経験しないで済むのならそれで済ませたかった、という生まれて初めて体験がほとんどになります。これはトキメキません。

 しかし、昨日、久しぶりにその初体験をしました。
 大雪で電車内にカンズメになるという初体験です。

 昨日の午後から、津市内は雪になりました。
 先週末もちらほら降ったようなので、たいして深刻に考えなかったのですが、終業時間となって、ふと暗くなりかけた窓の外を見ると、いつの間にか大雪で、空は真っ白。地面も真っ白。
 わだちが浮かび上がった道路ではクルマたちがソーロリと走っており、駐車しているものは完全にスッポリと雪に覆われています。
 えらいこっちゃ。


 早く帰ろうと思いつつも残務整理をしていたら、職場を出たのは結局午後6時。すでに歩行は少し困難となっており、クルマの通行量も心なしか少なくなっています。(国道23号は大渋滞だったようですが。)

 ラッキーなことに近鉄は動いていたのでやれやれと乗車し、走り出して30分ほど。座ってうとうとしていたら、突然、駅もない真っ暗な線路上で電車が停車しました。
 車掌さんのアナウンスによると「先行の車両が停車しているので、この電車もここでしばらく停車する」とのこと。

 最初は、そうかあ、雪だし仕方がないなあと思っていたのですが
 アナウンスの内容が
・宇治山田駅の3番ホームで停車中の電車が故障して走行不能になり、復旧するまで運転を見合わせます。
・走行不能の列車に後続の特急列車を連結し、後ろから五十鈴川駅まで押していく作業をするのでしばらくお待ちください。
・現在連結作業中とのことです。しばらくお待ちください。
・連結作業は完了し、五十鈴川駅に向かっていますが、そのさらに後続の電車も車両故障を起こし立ち往生しているのでしばらくお待ちください。
 と、様子が一進一退、いつになったら運転を再開してくれるのかがそろそろ気になってきます。

 結局、真っ暗な線路の上で30分、その後、明野駅の待避線まで移動して、そこでさらに30分。故障していたという後続の列車が運転再開したというアナウンスから、さらに15分くらい停車して、やっとのことで運転を再開しました。
 感心したのは、乗客の皆さん、ほとんどが冷静で、騒いだり文句を言ったりする人がまったくいなかったことです。まだ午後8時ごろだったので、帰宅客で時間に余裕があったことや、電車が全体的に空いていて空間的にも余裕があったためもあるでしょう。
 はんわしも、本を持っていたし、何より携帯電話があるのでヒマがつぶせました。こういうコンディションが重ならなかったら、けっこうイライラしていたかもしれません。

 いつもなら午後7時には到着する伊勢市駅に午後8時半に到着。ところが、ここでさらに無意味に15分も停車して、隣駅の終点、宇治山田駅には8時45分過ぎに到着。津から所要時間2時間30分のロングジャーニーでした。
 帰りの道は雪が積もっており、家まで歩くのにまた一苦労でした。


 今朝も雪は残っていて、しかもツルツルに凍っていたので出勤の駅までの歩きもけっこうたいへんでした。

 しかし、それが何と、今日一日の晴天で、ウソのように雪は溶けてなくなってしまいました。
 本当に夢のように、いや、雪のように儚い(はかない)とはこのことなのでしょう。
 あの雪道を歩く時の注意力やエネルギーはいったいなんだったのだろう。停められた電車に乗っていた数百人の乗客の、合計すれば数千時間にも及ぶであろう時間のロスも!

2011年2月14日月曜日

伊勢参宮街道 古市を歩く(その2)


 順番は前後しますが、資料館の手前に麻吉(あさきち)という旅館があり、これも江戸時代から残っている数少ない建物です。
 山の斜面に建った木造建築で、渡り廊下まであるのには驚きます。10年前に伊勢自動車道がすぐ横を通るようになったので付近の景観はだいぶ変わってしまいましたが、往時の繁栄をしのぶのにいい場所です。

 また、この付近には大林寺、寂照寺、長峰神社、桜木地蔵なども点在していて、小さいながら、それぞれに由来があるので時間はけっこうつぶせます。
 写真は芸能の神様、アメノウズメを祀った長峰神社です。

 参宮街道資料館、そして高速道路上の交差点を過ぎると、古市街道沿いの店舗はほとんどなくなり住宅街になります。
 道幅はますます細くなってクルマ同士がすれ違うのも困難なので、気をつけて歩きましょう。

 そろそろ歩き疲れてきた頃、大きな石灯籠が並んだ公園のような場所があり、ここから先は急な下り坂になります。
 前回、歌舞伎衣装レンタルで繁栄した千束屋のことを書きましたが、この急な坂(牛谷坂)は江戸時代中期まではもっと急峻なものだったのを、参宮客が難儀するのを見かねた千束屋の女主人、里登(りと)が資金を出して緩やかな坂に直したとの話が残っています。

 その後、明治維新になると、有史以来、天皇本人は参拝しないことが慣例であった伊勢神宮に、初めて明治天皇が親拝することになりました。
 その際、遊郭などが建ち並ぶ古市を天皇にお通りいただくのは畏れ多く、何よりも、間の坂、牛谷坂とも馬車が走るには急勾配すぎるという理由によって、天皇参拝用に古市の高台を迂回する御幸道路が建設されることになりました。
 江戸時代まで、庶民信仰のワンダーランドだった伊勢神宮も、国家神道の頂点にふさわしい厳格化された信仰に形が変えられていきます。
 さらに鉄道が開通すると徒歩の参宮客は激減し、昭和初期の大火と戦災によって繁栄を誇った古市もついに灰燼に帰します。

 ここまで来れば古市街道も終点。大きな看板があり、信号を左に曲がればすぐに猿田彦神社です。
宇治山田駅から約1時間。内宮宇治橋まであと10分ほどです。
 春になったらみなさまもぜひ歩いてみてください。(三重交通バスでも宇治山田駅前から古市経由の浦田町行きに乗ると、ほぼ同じルートを通ります。)

2011年2月13日日曜日

伊勢参宮街道 古市を歩く(その1)

 この三連休は、初日は伊勢では珍しい雪に見舞われたりはしたものの、多くの参宮客が押し寄せていました。
 伊勢神宮の外宮と内宮の間は、休日は市内が大渋滞するため、自家用車では1時間以上もかかってしまうことは珍しくありません。
 もっとも、距離は5kmほどで、散歩がてら歩いても1時間足らずなので、歩いて移動する方もかなりいらっしゃいました。

 徒歩の場合、外宮から内宮へは大きく3つのコースがあります。
 一つは外宮の真ん前にある4車線の道路「御木本(みきもと)道路」を使うもの。このコースは郊外の住宅地を通るので、途中に名所や休憩処はありませんが最短距離で、健脚なら45分ほどです。
 もう一つは、「御幸(みゆき)道路」と呼ばれる、両側に石灯籠が並ぶ道を行くもの。途中に神宮美術館や徴古館がある風情のある道ですが、やや遠回りで1時間以上かかります。
 最後に、今ではほとんど忘れられているのが、江戸時代までのメインルート、参宮街道であった「古市」を行くものです。
 よく伊勢に来られる熱心な観光客も、実際に古市を歩いたという方は意外に少ないようなので、今日はこのルートをご紹介します。
 ただし、現状の伊勢市内の道路体系から見ると幹線を外れてしまっているので、入り口がちょっと見つけにくいかもしれません。
 出発点は、近鉄宇治山田駅に設定させていただきます。(ヤフー地図にリンクしています)

① まず、駅を出て前の道を左方向に進みます。サークルKを過ぎて、みずほ銀行と第三銀行がある大きな交差点をまっすぐ進みます。
② 二つ目のやや小さな交差点を左折します。酒屋さんがある方向です。
③ まっすぐ100mほど行くと橋が架かっていて、ちょっとした公園になっています。

 ここが古市街道の入り口である「小田の橋」です。(宇治山田駅からここまで10分ほどです。)

 今は閑静な住宅街になっていますが、江戸時代の古市は旅籠や料理屋、妓楼が建ち並び、無数の参宮客が行き交う一大歓楽街でした。
 ここから、けっこう急な坂を登っていくことになります。


 お杉お玉という石碑が建っています。江戸時代、間の坂(あいのさか)と呼ばれるこの急坂辺りに、お杉さんとお玉さんという若い女性コンビの三味線芸人がいたことに由来します。
 人気が出てくると、お杉お玉を名乗る芸人コンビがたくさん出てきて、この辺り一帯が大衆演芸ゾーンになっていたそうです。

 古市にはかつて芝居小屋、遊郭、旅館等が立ち並んでいましたが、大火や戦災でかつての大廈高楼はほとんど失われています。間の坂を登りきったあたりに残る両口屋旅館は当時の繁栄をしのばせる唯一現存する建物ですが、老朽化が進み廃屋寸前なのが残念です。(現在は営業しておらず、建物の中には入れません。)

 古市には三楼と呼ばれた、備前屋、杉本屋、油屋という大きな遊郭がありました。特に油屋は歌舞伎の伊勢音頭恋寝刃(いせおんど こいのねたば)の元ネタになった「油屋騒動」があったことで有名です。

 神宮御師の養子で医者でもあった孫福斎(まごふく いつき)は、油屋のおこんという当時16歳だった芸妓(ちなみに現在の熊野市五郷町から古市に身売りされてきたらしい)と馴染みでした。
 しかし、おこんは天性の美貌を持つ売れっ子だったため、忙しい時には複数のお座敷で酒席を掛け持ちするという、業界で言うところの「回し」をやっていました。
 孫福は前途洋々たる若者ながら酒乱だったらしく、その日もおこんがなかなかお座敷に戻ってこないことに激昂して刀を振り回して暴れだし、家人や女中、下男を殺傷したという事件です。寛政8年(1796年)5月のことでした。

 このことは、伊勢市古市参宮街道資料館にも詳しく展示されています。無料なので、立ち寄ってみるのも一興でしょう。
 ここからの景色は抜群です。古市が馬の背のように分水嶺に街道があって、その両脇に家々が建ち並んでいるという独特の町並みであることもよくわかります。

 さて、この参宮街道資料館まで来ると、このルートも半分ほどやって来たことになります。ここまで宇治山田駅から40分ほどです。
つづく

※誤記があったので内容の一部を修正しました。

2011年2月12日土曜日

「病院」がトヨタを超える日

 民主党政権の「新成長戦略」を肯定的に捉えている人たちの間でも、環境ビジネスの振興を図るグリーン・イノベーションに対して、医療や介護の分野で経済成長を図る「ライフ・イノベーション」には懐疑的な見方が多いようです。

 日本は世界に冠たる国民皆保険制度を有しており、基本的に誰であっても自由に医療サービスを受けることができ、しかも診療費は先進国で最低に近い安価に設定されています。
 しかし、これは同時に、診療費を国が公定し、その財政の枠組みの中であらゆる医療事業や介護事業を成り立たせている、一種の社会主義経済でもあります。
 なので、美容整形など一部の例外を除き、医療側が診療費を勝手に決めることはできず、全国どこの病院でも診療所でも、名医でも新米医師でも、診療行為が同じであれば診療費も同一であるという仕組みになっています。

 供給側に価格決定権がない(つまり、自分の提供する商品の値段が自分で決められない)ことによって何が起きるかというと、医療側が切磋琢磨してより良いサービスをより安く提供するインセンティブが働かず、したがって、創意工夫よりも、なるべくコストを抑えることが優先されるようになります。
 さらに、「医は仁術」とか、「医療や介護で金儲けをするのはケシカラン」という思想も広く浸透しているので、実際には赤字になっている病院は多く、努力せず赤字になっても公立病院には多額の税金が補填されています。

 このように、産業、ビジネスと正反対の世界に位置している医療ですが、「医療こそ日本にとって重要な輸出産業になる」というのが、この本 「病院」がトヨタを超える日 (講談社+α新書)の趣旨です。
 著者は医療法人社団KNI理事長で脳神経外科医でもある北原茂実氏。病院経営の世界では自分は常に少数派だったと自称するように、まったく新しい視点から、たいへんに大胆な持論を発表されています。

 まず、昨今よく言われている「医療崩壊」の本質は、「医療費崩壊」である、と喝破します。
 実際に日本は高齢者が増えて患者が激増し、診療機器や薬剤も高度化してコストも増大しているのに、国はまず「医療費抑制」ありきで不当に安い診療報酬を設定しているため、医療現場では本当に必要なマンパワーも十分に確保できません。
 その意味では、医師不足も真の原因は財源不足に(本来必要な医療財源が少なすぎることに)あるのです。
 
 一方で、医療制度そのものも、株式会社は営利目的だからという理由で病院経営が認められていないなど、医療サービスをビジネスと考え、効率的に経営しようという内容になっていません。
 これを改めるためには、全国民の診療データをICカード化して、ドクターシッピングや重複診療を防止することで総医療費を下げる一方、実態とあまりに乖離して、すでに歴史的な使命を終えている国民皆保険制度は廃止し、診療費の自由価格化に日本は舵を切らなくてはいけないと説きます。

 そして、日本の医療水準は世界的に見ても高レベルなので、これを「輸出産業」と捉え、診療、看護、検査、診療機器の開発販売、新薬の開発販売、リハビリ、食事、などなどの医療を構成する個別のサービスをパッケージにしたうえで、その運営ノウハウを海外に展開すれば、製造業を超える新たな成長産業になる、というのが北原さんの提案です。

 驚くのは、彼はこの考えを、経済成長著しいカンボジアですでに実践していることです。もしここで日本流の優れた医療サービスが体系化できれば、そのビジネスモデルが全世界の新興国にも展開できるというお考えだからです。

 はんわし、以前、病院の事務をやっていたこともあって医療現場の実態や診療報酬の矛盾はよく知っているつもりでした。しかし、これほどダイナミックで、しかもある程度の実現性を感じられるような提言は初めて読んだので、読後にちょっとした爽快感を覚えました。

 高齢化がさらに進む日本では医療費や介護費の激増は避けられません。国(国民)が適正な財政負担をするのは当然ですが、ビジネスとしての効率性やイノベーションを取り入れることで、収益を上げられる医療産業に生まれ変わらせる。
 これは今後10年くらいの間に、何が何でもやり抜かねばならない日本の課題だと感じます。

2011年2月11日金曜日

なぜ地方自治体でパワハラが横行するのか

 2月8日付けの新聞各紙は、兵庫県庁の出先事務所である阪神北県民局に勤務する課長級の男性職員(58)が、部下にパワーハラスメントを繰り返していたとして、県が停職2か月の懲戒処分を下していたことを報じました。(その後、依願退職したそうです。)

 この職員は、昨年5~11月、職場の部下十数人に対して、説明を遮って「こんな書類を読めというのか」と大声で怒鳴りつけたり、部下の前でメモを丸めてごみ箱に投げ捨てたりしたほか、わざと書類からはみ出して押印したり、その反対に、書類の決裁をしなかったりする行為も繰り返したそうです。
 これらのパワハラ行為によって精神的なストレスを感じた40代の男性職員が2カ月間、「次は自分の番かも」と恐れた30代の女性職員が7カ月間、病気休暇に追い込まれたとのことです。

 しかし、本質的に問題なのは、言うまでもなく、このようなパワハラ男がなぜ課長級という県の幹部職員にまで登りつめてしまったかということです。
 朝日新聞によると、この男も「自分の仕事の仕方は昔からこうだった。パワハラとは思っていなかった」と釈明したとのことですから、以前から兵庫県庁内では皆が知っていたはずだからです。

 明確な理由の一つは、県庁の職員が基本的に終身雇用の年功序列であって、「パワハラ程度」の不良行為では、懲戒はもちろん、降格にも値しないためです。
 また、同じ地方公務員でも行政職は、学校の教員や警察官と違って昇任試験や昇進試験がなく、管理職に選抜される基準がまったくのブラックボックスであることも挙げられます。
 これは、人事における評価の基準が不明朗で、情実が介在することを疑わせるとともに、管理職に求められる、執務上必要な法律とか行政手続き、財政や会計規則、労務管理などの基礎知識がそもそも欠落している管理職を生みだす温床となっています。

 一般的に、公務員は既得権に守られたラクチンな商売だと思われています。
 残念ながら、これは終身雇用や年功序列という意味では当たっているのですが、それと同時に、パワハラ職員のような「有害な」職員までもが温存され、ひとたび管理職に登用されてしまうという悲劇が起こると(しかも、それは日常茶飯事のように起きている!)、加害者であるパワハラ男も、同じ公務員同士だという理由で被害者と同じように既得権に守られるという矛盾も生み出します。
 これは、真面目に勤務している大多数の公務員を苦しめ、県庁組織全体のパフォーマンスを低下させることで、結局は県民全体に害を及ぼすことになります。

 少なくとも、課長級の管理職への昇任、昇格は試験制にすべきです。こんなこと、当たり前のことではないでしょうか。

<2月13日 補足>
 当初の記事には「三重県にもパワハラ職員がいる」という主旨のことを書きました。この記事内容は事実ですが、誤解を招きかねない表現があったので該当部分はすべて削除いたしました。
 なお、個人が特定できるような内容のコメントはすべて非公開にさせていただきました。ご了承ください。


2011年2月10日木曜日

ファミマでマイヤーレモンに再会!

 ファミリーマートと三重県が「連携に関する包括提携協定」を締結しました。
 ファミリーマートのホームページによれば、協定締結は、県産品オリジナル商品の開発や、観光情報の提供など、県の広範囲にわたる事業を協働して実施することが目的であり、県民サービスの向上や地域経済の活性化を推進する三重県と、地域密着型の店舗作りを進め、より地域活性のお手伝いをしたいというファミリーマートとの意向が一致したために実現したとのことです。

 ご承知の方も多いと思いますが、三重県庁の地下にはファミリーマートがあります。
 わしはここで、ほぼ毎日何かを買って数百円ずつは消費しているのですが、今日は協定のお披露目なのか、美し国三重県フェアなるものが店頭で開かれていました。

 ちなみに美し国とはこれで「うましくに」と発音させる、三重県のキャッチフレーズです。
 美し国という表現自体は古事記にも見られ、天照大神が鎮座するに当たり、伊勢国までやって来たときに「ここは美し国である」との御託宣があって、今現在の伊勢神宮に地を定められたという神話がベースになっています。

 ただし、ワープロソフトで「うましくに」とタイプしても「美し国」とは変換されませんし、当用漢字の読み方もありません。商品名にしろ店名にしろ、「読めないネーミング(当て字とか、難読文字とか)は失敗する」というジンクスがよく語られます。
 はんわし的にはこれってかなり真実だと思うのですが、キャンペーンのネーミングではどうなのでしょうか・・・?

 店内に入ると、これまた美し国三重県フェアの限定商品なるものがたくさんリリースされていました。

 ふと見たら、何とマイヤーレモンの文字が。

 マイヤーレモンは、リスボンなど通常よく目にするレモンに比べて香りや酸味が少なく、東紀州の紀宝町、御浜町で盛んに栽培されているレモンです。

 この三重県産マイヤーレモンを使った蒸しケーキが期間限定で発売されていたのでした。
 もちろん、躊躇なく購入。

 ほんのりレモンの香りが漂う、なかなかおいしいケーキでした。

 マイヤーレモン地元農家グループが特産品にしようと頑張っていて、紀宝町の道の駅ウミガメ公園などで生果や瓶入りの搾汁を売ってはいますが、まだまだ知名度が低いのが現状です。
 大手コンビニとタイアップしたことがきっかけで、販路の拡大につながるといいのですが。

2011年2月9日水曜日

野菜が無料でもらえる「タダヤサイドットコム」

 GIGAZINEによると、消費者に野菜を無料で配布する、「タダヤサイドットコム」なるサイトがオープンし、人気を博しているとのことです。
 タダヤサイドットコムは埼玉県本庄市の会社が運営しているようですが、野菜の供給は群馬県と埼玉県北部を中心とした生産農家とタイアップしているとのことです。

 サイトの説明によると、

 我々の地元では収穫量が多すぎたり、少しの傷だけでも正規品にならず規格外商品として出荷することが出来ません。
 例えその様な商品であっても大都市のスーパーマーケットに陳列されている商品よりも高品質で鮮度も高い事が多く、既存流通の企画に適合しないというだけのものだけで商品価値は一気に低下します。
 我々はそれらの商品を世の中の皆さんに知っていただく為に無料にてプレゼントとして味わっていただき本当のおいしさを認識していただきたいと思っております。

 との解説があります。

 現在キャンペーン期間のようで、2月19日まではイチゴ2パックが、2月26日まではちじみほうれんそうが、それぞれ無料でいただけるようです。

 ■タダヤサイドットコム http://www.tadayasai.com/

 もちろん、タダで配っていては儲かりませんので、ビジネスモデルとしては無料サンプルを通じて、生産している農家と消費者をつなぐきっかけを作り、あとは農産物を気に入った消費者が、それぞれの農家から直販してもらう、ということなのでしょう。

 はんわし、数年前にある農家の著作を読み、その人が「飲食店でご飯のお代わりは無料、というのを見ると無性に腹が立つ。いくら茶碗一杯のお米でも、それがタダということがあるか。農家がお米を作るのにどれだけ苦労しているのかわかってない。ライスが無料というのはサービスではない。それは農家を苦しめ、結果として消費者にもデメリットになるのだ」という主旨の論を読んでなるほどと思い、それ以来、ラーメン屋によくあるライス無料サービスを頼むとき何となく後ろめたい気持ちになっていたのでした。

 このタダヤサイドットコムは、今流行の無料戦略で、一定の見通しがあるのだと思いますが、生産者である農家の皆さんはどのような感想を持たれるのでしょうか?

2011年2月8日火曜日

まさしくウルトラCの岐阜県「未就職大卒者」支援

 今朝(2月8日)の中日新聞を見て、眠気がいっぺんに吹っ飛んだはんわしでした。

 大卒未就職者 岐阜県が支援 正社員めざし海外研修
 という記事で、岐阜県は平成23年度に、就職が決まらない大卒者を期間限定で雇用し、中国でビジネス研修を受けて正社員への採用を目指す研修事業を行うという内容です。
 同県によると、「企業からは最近、海外での仕事を嫌がる若者が多いとの声があがっている。」とのことで、「この研修事業で若者の就職と同時に海外への活路を探る県内企業の人材確保につなげたい考え。」とのことです。

 補足すると、ここで言っている研修事業とは厚生労働省が緊急雇用対策として平成22年度から開始した、緊急雇用創出事業を活用したものだと思われます。厚労省の原資を県に基金としてプールし、その費用を使って、県は今回のような研修事業を民間企業に委託します。
 大卒未就業者などの若者は、実際には受託先の民間企業に1年未満の期限付き社員として雇用され、社会人の心得やビジネスマナー、さらには専門的な研修と、実際に企業の現場で実習(インターン)する研修を行い、研修期間(雇用期間)が終了した後は、その研修で得た知識技能を生かして、新たに正社員としての就職につなげるというものです。

 三重県でも今年度、Mie-OJT事業という名称で、若年求職者を対象に、ものづくり中小企業においてICTを活用した販路開拓や営業活動ができる人材を育成するため、座学研修とインターン研修を組み合わせた事業を実施しました。(非常に優秀な受講者ばかりで、このような若者たちが新卒で容易に就職できないという現実にはあらためて驚かされたのですが。)
 結果、8割近くの受講修了者は無事就職することができ、事業としての成果は大きかったのですが、さずがにこれはあくまでも国内の(三重県内の)中小企業で働くことを想定していました。

 今回の岐阜県の事業は、岐阜県内の中小企業が対象ではあるものの、岐阜県から海外に展開している企業の、海外の生産拠点や営業拠点で働く人材の育成を目指しているのです。
 これはハッキリ言って、思い切った英断です。
 以前このブログにも書いたように、海外に進出している中小企業は一般に生産性が高く、海外での事業活動が増えることによって管理部門や間接部門の(つまり国内の)雇用は増加するという実証的なデータもあり、円高がすっかり定着し、中小企業とて海外で生産しないと生き残れない時代ですから、企業が求める人材という意味ではこの事業はニーズにマッチしています。

 しかし、企業が国外で稼いだ利益には現地国が課税するので、岐阜県の税収には大きな影響は与えないのではないかと思います。
 それとも岐阜県の企業が海外で事業拡大し、それによって間接的に岐阜県内の本社の雇用が増えることが狙いなら、壮大というか、ちょっと迂遠な気もします。
 要は、はんわしにはここまで踏み込む岐阜県の狙いがよくわからないのでした。
 中日新聞社も、そのあたりの経済効果まで取材してくれると良かったのですが・・・。

2011年2月7日月曜日

TPPセミナーに行ってきました

 今日は野村證券主催のTPPをテーマにしたセミナーに行ってきました。
 会場には、企業経営者、JA関係者、行政関係者がほぼ1/3ずつ、合計数十人という盛況ぶりでした。
 講師は野村證券金融経済研究所の主任研究員 川崎研一さん。
 この方は内閣府経済社会総合研究所の客員主任研究官も兼務されており、日本におけるTPP問題の第一人者とのことです。

 TPPが、昨年夏から政治的な争点に突然急浮上してきた理由は何か、また、そのように世間で騒がれているわりに一般国民には正確な仕組みがあまり知られていない、という問題意識に立ち、エコノミストらしい実証的な話が中心でした。
 正直言って、内容的にはやや難しく感じたのですが、印象に残ったポイントは2つありました。

 1つは、昨年秋頃に政府が公表したTPPによって日本にどのような影響が起こるかの試算についてです。
 内閣府、農林水産省、経済産業省がそれぞれバラバラな試算結果を示したため、国の縦割り行政ぶりが批判されたりもしましたが、川崎さんの話によると、これら3つの省庁の実務担当者は頻繁に情報交換したうえで試算を行っており、かなり正確な試算結果になっているとのことでした。
 ただし注意すべきなのは、農水省は「主要農産品19品目」について、「全世界対象に関税を撤廃し」、「何も追加対策を講じない」という極端な前提条件を設定したうえで、農業生産は4.1兆円減少という結論を出しています。
 経産省も同じようにさまざまな前提条件をつけた上での試算なので、一概にどれが正しく、どれがが間違っている、という批判は当たらないとのことでした。

 もう一つは、以前もこのブログで触れたようにTPP問題イコール、輸出型製造業と農業の戦い、という見方は誤っているという指摘です。
 TPPには24の作業部会が設けられており、農業はその一つのジャンルに過ぎません。 
 TPPにおいて加盟国の貿易は全品目について即時又は段階的に関税を撤廃することが原則です。しかし、似たような他の自由貿易協定では「アメリカは砂糖は絶対に他国に開放していない」とか、「韓国もコメだけは開放していない」と言ったように、実際には交渉次第で例外があることです。
 また、川崎さんのような専門家の観点からは、農業よりもSPS(衛生植物検疫措置)、TBT(技術的貿易障壁)といった、食品や工業製品の安全規格とか検査基準を加盟国間で標準化し共通化する課題のほうがよほど重視されており、日本でも、むしろそれへの対応が強く迫られる、ということだそうです。
 また、24テーマの中には、政府調達、一時入国、労働などの項目もあって、建設業のような内需型産業のグローバル競争促進や、観光・短期滞在のビザ発給簡素化、外国人労働者の受け入れなど、地域経済にとっての影響が大きい項目が多数含まれています。

 結局、狭い見方ではなくトータルな視点からTPPの是非を判断をすべきである、という結論が、平凡ではありますが現時点での正解のようでした。

■SPS協定について(農林水産省)

■TBTとは(Weblio辞書)

2011年2月6日日曜日

自転車買いました

 自転車が古くなり、さびさびになって見栄えも悪いし、タイヤの空気もすぐに抜けるようになって来ていたので、思い切って新しく購入することにしました。
 昨年末には生まれて初めて電動アシスト自転車に乗り、そのあまりの快適さ、スイスイと急阪でも登れるパワーに感激していたので、そんなの買ってみてもいいかな、と思って自転車店とかホームセンターの何軒かを物色しました。
 しかし、やはり電動は8万円以上するものが多く、実際にカネを出す段になって怖気づいてしまったことと、スタイルもママチャリ的な車種しかなく、結局購入は断念し、普通のシティサイクル(パパチャリとでもいうのか)を買いました。
 ちなみに、購入前にある人に相談したところ、最近の電動自転車は時速24km以上(だったか?)になると、自動的にアシストが止まってしまう仕組みなので、スピードを出す人は走っている間、アシストが入ったり、切れたり、また入ったりして「鬱陶しい」というアドバイスでした。
 自分が乗ったときは気づかなかったのですが、実際に電動アシスト車に乗っている方はどんなご感想なのでしょうか。

 さて、購入後、嬉しくて無意味に伊勢市内を走り回っていたのですが、すごく目に付くのはフラフラと走る高齢者の自転車です。クルマを運転している時はそれほど気にならなかったのですが、同じ自転車という目線だと、前を走っているおじいさん、前から走ってくるおばあさん、の様子があぶなっかしくて仕方ありません。
 おそらく体力・注意力の低下のせいで、ご本人は無意識なのでしょうが、狭い道をジグザグに走っている(走ってしまう?)とか、けっこうクルマの量が多い道でも思い立ったように突然斜め横断を始めるとか、信号を守らないとか、歩道の歩行者をベルを鳴らして蹴散らすとか、夜はライトをつけないとか、感覚的にですが半分くらいの高齢者は自転車の交通ルールを無視しているか、理解していないように見受けました。

 高齢者の運転する自動車の事故が激増しているということが報じられてかなりになりますが、先日は認知症のドライバーの占める割合も少なくないことがニュースになっていました。
 もっとも、交通不便地では自家用車が唯一の移動手段だし、長年運転していた高齢者から運転の機会を奪うほうがよほど精神的にはダメージとなるという意見もあるので、一概には決め付けられませんが、自動車だけでなく、自転車の交通秩序の悪化も見過ごせないのだなあ、と実感した、この週末でした。

2011年2月5日土曜日

県と藩

 起業家や政治家が、よく自分自身を戦国大名とか幕末の志士といった「武士」になぞらえて悦に入っている姿を、実ははんわしはあまり快く思っていません。(「武士道はやめよう」参照)
 しかし、今の「県」と、幕末の「藩」は状況が似ているような気はします。
 
 国と市町村の間にあって、中二階にも喩えられる都道府県(特に県)は、古代からの国(尾張とか美濃とか伊勢とか)を明治時代に再編したもので、この区域設定自体に特別の合理性はありません。
 今のように交通手段が発達し、情報の伝達も早くなってくると、統治者と人民の間にある中間機関はむしろ邪魔になっています。(もちろん、明治以来培われてすっかり確立している「県民性」というエモーションは無視できませんが。)

 住民の生活ニーズは多様化し、社会の仕組みも複雑になって、これに対応するには県の規模は広すぎ、よりきめ細かい行政サービスのために、市町村の存在感が強くなってきています。
 一方、環境保全や産業振興のような政策分野では、県の規模は狭すぎたり、あるいは県内の地域性が多様だったりして、複数の県で共同すべき分野とか、逆に、県内の複数の市町村で共同すべき分野、のように、枠組みを多様にする必要性も生まれています。
 その意味でも県の規模は中途半端です。

 財政の面でも、現状は多くを国に依存しています。
 かといって、自分で課税自主権を確立しようという気概はなく、税や財政の制度設計ができるプロ職員もほとんどいません。
 国民・住民やマスコミは国と地方を合わせた借金累積が900兆円近くになっていることに危機感を持つ向きも多いのですが、県は予算案を作成するに当たって「財源はなるべく県費(県民から徴収する税金)は使わず、国費(補助金とか助成金)を使うように!」という基本思想に立っています。
 これは「県民」としてのインセンティブとしては正しいのですが、すべての県がこれをやったら国はたまったものではありません。地方の借金を国に付け替えているだけのモラルハザードなので、日本国民全体の借金増加には歯止めがかからないからです。

 このように制度疲労が明らかになっているなか、いかにお家大事、既得権大事の「藩士」たちであっても、将来進むべき方向性は明らかになっていると思います。
 まず、人件費を含めた政策のコストは大幅に引き下げざるをえません。コスト削減は、必要不可欠な最低限の仕事以外は廃止し、そのうち県がやる必然性が低い仕事は民間などふさわしい相手に委譲することと同時に行うことが必要です。
 県という枠組みも考え直さなくてはいけないでしょう。三重県を例にとれば、伊勢湾岸の諸都市は生活様式が中部圏内ですが、伊賀や熊野は関西圏なので、現行の枠組みでは広域化にも対応できないからです。

 今年のお正月、はんわしは関西にいたのですが、新聞を読んでいて驚いたのは、名古屋本社発行の各紙がトヨタのような製造業企業を中心とした「景況」や「技術開発」の特集が多かったのに比べ、大阪本社発行のものは「大阪都」「関西広域連合」といった、住民生活基盤のあり方に関する特集ばかりだったことです。
 それまで、あまりピンときていなかった中二階の見直しですが、関西では明確な一つの争点になりつつあることを実感させられたのでした。

 このような制度変革は、地方行政の世界における「破壊的イノベーション」なので、漸進的な「緩やかなイノベーション」など一挙に吹き飛ばされてしまうことでしょう。

2011年2月4日金曜日

三重県の「経営革新計画」承認企業

 産業政策(商工政策)というと、最近ではバイオテクノロジーや新エネルギーといった先端的な産業分野を行政が支援し、育成することというイメージが一般的かもしれません。
 しかし、実際には国や県といった行政機関が、特定の産業を「成長分野」に選択し、これに集中的に資金を投資する、いわゆるターゲット型産業政策はほとんどが失敗していると言っていいと思います。

 それと反対に、地味であり、目に見えて大きな成果は挙げられないかも知れませんが、地域にとって重要な存在である中小企業を支援することが、地方自治体にとっての商工政策の中心であるべきだと、はんわしなどは思っています。

 その中小企業支援の、一つの有効なツールが経営革新支援と呼ばれる制度です。
 経営革新支援制度とは、中小企業が「新しい事業活動」、すなわち
* 新商品の新たな開発や生産
* 商品の新たな生産や販売方式の導入
* 新サービスの開発や提供
* サービスの新たな提供方法の導入その他の新たな事業活動
 などに取り組むに当たり、
 付加価値額(営業利益+人件費+減価償却費)と経常利益が一定割合で向上する計画を策定し、その計画が県に承認されると、低利融資や信用保証の特例など、計画遂行にあたってさまざまなメリットが受けられるというものです。

 あくまでも、中小企業のヤル気や創意工夫が出発点であり、行政は、そのヤル気を「見える化」し、実効性をブラッシュアップする計画策定や承認という形での側面的なサポートにとどまります。
 しかし、地域経済が循環するエンジンは、まさに中小企業者のヤル気や企業家精神なのであって、経済が成熟した日本にとって、本来望ましい産業政策(産業支援)はこのような形であるべきはずです。

 ちょうど先日、三重県が平成22年度第3四半期の経営革新計画承認企業を公表しました。中小企業経営者もデフレやグローバル化を嘆くばかりでなく、ぜひ商品力や技術力、サービス力を高めて、積極的にチャレンジしてほしいと願います。

■「経営革新計画」承認企業のご紹介(平成22年度第3四半期)
 三重県ホームページへ http://www.pref.mie.jp/TOPICS/2011010381.htm

2011年2月3日木曜日

八百長は犯罪ではない

 大相撲の八百長疑惑が世間を騒がせています。
 相撲の発祥は神事であり、その本質は太神楽と同じような神事由来の「芸能」であることは、たとえば福祉相撲とか、地方巡業での力士たちのリラックスした姿や旺盛なサービス精神を見るとよく実感できます。
 また、体重が200kg近くもある堂々たる体躯の力士たちですが、毎日毎日身体能力の極限に近い厳しい稽古を重ね、場所ごと、取組ごとに真剣勝負をしていたら負傷してしまうリスクも高くなります。長く好きな職業を続けるためにも、プロフェッショナルの知恵が働く場面はあるでしょう。彼らにとって相撲は生業なのですから。

 多くのマスコミ報道もようやく指摘しだしたように、「八百長相撲」それ自体は犯罪ではありません
 もちろん同義的に許されはしませんが、八百長が相撲賭博とかの明白な刑法犯罪に絡んでいた場合はともかく、力士同士が金銭のやり取りをしてわざと負けること自体は法には触れないはずです。
 
 そうではなく、先の野球賭博疑惑にからんで警察が押収した(あるいは任意に提出させた)力士たちの携帯電話のメール内容が、勝手にマスコミに提供されてしまうことのほうがよほど深刻で、恐ろしいことです。
 いかなる理由であれ検閲は憲法上禁止されており、公務員には守秘義務もあります。通話や、通話に準じるメールの内容を、たとえ警察官であっても得ることは違法な可能性が高いのではないでしょうか。 
 ましてや八百長疑惑は野球賭博の捜査線上で出てきた問題であって、これ自体は捜査目的でもありません。
 力士たちは疑惑を持たれただけでプライバシーも失ってしまうのでしょうか?
 
 不人気な民主党政権の閣僚たちが、相撲協会を攻撃する姿(全く関係ない公益法人改革のことまで持ち出して)は浅ましい限りです。ただ、政権が本当に崖っぷちの末期状態なことの証左なので、人気取りをするのが理解できなくはありません。
 しかし、プロの法律家から疑問の声が出ないのは何故なのだろうと、これは本当に不思議に思います。

2011年2月2日水曜日

スマイルカーブの「下流」に行きたい

 はんわし、あるメルマガを読んでいたら、ちょうど、映画ソーシャルネットワークを見た感想が書かれていました。

 先日このブログでご紹介したソーシャルメディアのビデオクリップでも、「中国、インド、フェイスブック」という言葉が出てきたと思います。
 フェイスブックの利用者は現在6億人で、中国、インドといった大国に次ぐ「人口」を有しています。今やSNSにとどまらず、メール、検索エンジン、ブログなど、情報とコミュニケーションに関してすべてのサービスを飲み込み、提供する、一つの国家のようなパワーを持っていることを表しています。

 そのメルマガは続けます。
 「マイクロソフト以降、ヤフー、アップル、グーグル、フェイスブックと次々に登場してくるIT企業・サービスは、すべてアメリカ発。・・・・日本はなんでも手足だけか、と漠然とした不安も強く感じつつある。」

 これは確かに日本人として実感できます。
 もう少しなんとかならないか、アメリカに対応できるようなICTのビジネスモデルが生まれないかと歯がゆく思います。

 もっとも、いわゆる「スマイルカーブ理論」から見ると、日本の製造業が採るべき企業戦略としては必ずしも間違いではないかもしれません。
 スマイルカーブとは、部品や規格の共通化(モジュラー化と言います)が進んだ産業分野で、付加価値=利益が、工程の「上流」にある分野(核になる部品を提供するメーカー)と、「下流」にある分野(サービスやソリューションを提供するビジネス)では高くなり、中間にある組み立てメーカーは利益が少なくなってしまう傾向があることを言います。
 図式化するとスマイルマークみたいに見えます。

 このスマイルカーブに当てはまる典型的なものがコンピュータ産業だと言われています。

・上流にあるCPUとか、OSを提供している企業は利益が大きい
・中流にある組み立てメーカーは忙しいわりに利益は低い
・下流にある、アプリケーションやゲームといったコンテンツ産業なども利益は大きい

 この場合、フェイスブックやiTunesなどは下流にあることになります。日本では楽天とか、グリーとががそうでしょうか。

 しかし、たとえばシャープのように、高機能液晶というタブレット端末の、まさに核となる部品が作れるオンリーワンメーカーは「上流」にあって、それはそれでビジネスモデルは強固だからです。

 しかし、地味です。
 素人の消費者にはほとんどわかり得ない技術の高さであり、凄さです。
 やはりiTunesとかフェイスブックのような「下流」に位置するサービス業(ソリューション業というべきか)のほうが圧倒的に消費者の耳目に触れ、魅力的に見えることは間違いありません。

 こんなことも、ひょっとすると日本人の製造業離れの一因のような気もします。
 だからこそスマイルカーブの「下流」に位置する、優れたビジネスモデルが待望されるのです。

2011年2月1日火曜日

IT経営セミナー&銀行融資ノウハウセミナー

 中小企業にとって、いかにして生産性を向上していくかはたいへん重要な経営課題です。
 その切り札の一つが「IT化」だと言われていました。
 しかし、IT化とは具体的に何を指し、どのような状態になればIT化されたと言えるのかが問題です。

 パソコンによる顧客管理、インターネットやEメールの利用などはすでにビジネスの常識でしょうが、家族経営や従業員が少数の小規模事業者にとって、ただ単に今までの作業内容にパソコンを導入しただけでは、かえって非能率になってしまうことがあります。
 つまり、単にパソコンに置き換えることではなく、現在の作業工程を検証し、能率的で合理的なものに変えていくこととセットでなくては、IT化などまったく意味がないのです。

 しかし、これは漠然とした話なので、では具体的に何から勉強すればいいのか、どうやって取りかかったらいいのか、がわからない経営者も決して少なくはないでしょう。

 そのような経営者に朗報です。
 2月10日(木)、(財)三重県産業支援センターがIT経営実践セミナーを開催します。
 まさに、「まず話を聞いてみたい」とか「何から手をつけたらいいのかわからない」という方にぴったりだと思います。
 公的団体の主催なので、セミナーに行ったらセールスされた、ということもあり得ません。
 IT化による生産性向上に関心がある方は、ぜひご参加いただいてはどうでしょうか。
■IT経営実践セミナー(三重県産業支援センター)
http://www.miesc.or.jp/monozukuri/it-keieijissen-seminar.htm

 もう一発、2月16日(水)には、創業のための銀行融資ノウハウ習得セミナーも開催されます。
 さっきのIT化セミナーとは客層が違い、これから創業を考えている人や、創業して間もない経営者が対象です。「金融機関は創業企業のどこに着目しているのか」とか、「銀行からスムーズに融資を受けるためには」など、起業を目指す人には必聴のセミナーです。
■銀行融資ノウハウ習得セミナー(三重県産業支援センター)
http://www.miesc.or.jp/monozukuri/ginkoyushi-seminar.htm

 行政や公的団体のセミナーは、税金の無駄遣いとしか思えない無意味なセミナーも多いのですが、地味ながらキラリと光るものも確かにやっています。
 こんなのは、どんどん勝手にPRしていきたいと思います。